恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
胡桃が最初に訪れたのは、サウスエリアにある商店街だった。

「壱世さん、サウスエリアは公務以外であまり来ないんじゃないですか?」

そして、さまざまな物が雑然と置かれた店に入る。
古めかしいタンスや壺などが所狭しと置かれていて、少し埃っぽい古い物の匂いがする。
中では店主らしき年老いた男性が一人で店番……と見せかけて、アンティーク時計の本を読んでいた。
真夏だというのに黒いニット帽を被っている。

「桑さん、こんにちはー! ご無沙汰してます」
「おお、胡桃。久しぶりだね」

この店は時計修理で十玖子に紹介した骨董品店だった。

「桑さん、お礼が遅くなっちゃいましたけど十玖子さんの時計ありがとうございました。あ、十玖子さんてわかるかな、シルバーのショートカットの」
「おお。わかるよ、トッコちゃんね」

「トッコちゃん?」
驚いたのは壱世だった。

「ん?」
店主の桑名が見知らぬ壱世の方を見て不審そうな顔をする。

「あ、彼はベリビに新しく入った……えーっと」

(本名ってわけにいかないもんなあ。栗須……クリス?ってまんますぎるし、あ!)

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