騎士団寮の家政婦、実は最強~最後の生き残りとなった彼女が望むものは~
顔を離したミイルが、メガネの奥に隠れた私の目をジッと覗き込む。
さっきとは打って変わって、とても真剣な表情で。
「…そっかぁ。それならいいんだ」
不意に張り詰めた空気を和らげて私の左手を取ると、その甲に小さなリップ音を立てて口づけを落とした。
とても自然な、流れるような動きで制止する間もなかった。
「君は、他の誰とも違うようだ。他の団員も、きっと君を気に入るだろう」
まるで予言するような言葉で、口調も変わっているし、ストロベリー色の瞳が怪しい光を宿したのをアルスィは見逃さなかった。
けれどそれに惑わされることはなく、軽く目を伏せて出口へ歩き出した。
王城も、王城で働く人たちも、アルスィにとっては決して良い印象なんてない存在だ。
それでもここでやるべきことがある。
だから私は一時だけ、心から嫌うものに成り下がることにした。