スパダリ救急救命士は、ストーカー被害にあった雑誌記者を溺愛して離さない~必ず君を助けるから。一生守るから俺の隣にいろ~
「マヨネーズだけでいい?」
「うん」
 靴を履きながら、他には? と尋ねてくれる蓮に瑠花はごめんねと謝った。

 いつもはマンションの下のスーパーでネットショッピングをして部屋まで届けてもらっているのだが、さすがに今すぐマヨネーズだけ持って来てとは頼めない。

「甘い物も探してくる」
 チョコレートケーキがあると一番いいけれどねと笑う蓮にいってらっしゃいのキスをした瑠花は、小さく手を振って見送った。

 今日の夕飯はポテトサラダとチキンカツ、豆腐の味噌汁にひじきの煮物だ。
 自分一人だったら面倒で揚げ物はしないなぁと思いながら、瑠花は一枚目のチキンカツを油の中に入れた。
 二枚目、三枚目がカラッと揚がっていく。
 四枚目のチキンを入れようとした時、廊下から大きな警報音が鳴った。

「えっ? 火事?」
 慌ててチキンを皿に戻し、火を止める。
 蓮に連絡しようとスマホに手を伸ばした瞬間、玄関のドアが激しく叩かれた。

「火事です! すぐ避難してください! 中に誰かいますか? 火事です!」
 ピンポンピンポンとチャイムが鳴り、ドンドンドンと何度も叩かれる。
 驚いた瑠花は覗き穴から外の様子をうかがった。
 男性は凛と正臣の部屋のドアも叩いている。

「火事です! 誰かいますか? いたら避難してください!」
 凛と正臣はまだ仕事から戻る時間ではないからいないはず。
 さらに隣の部屋を男性が叩くと、赤ちゃんを抱いたお母さんと五歳くらいの女の子が玄関から飛び出した。

「エレベータは無理なので、階段で!」
「は、はい。カナちゃん、階段で」
「やぁだぁ、階段こわい~」
 私があの子の手を引いて下りれば……!
 火災報知器のベル音、避難してくださいの声、階段を降りられない女の子。
 廊下にスプリンクラーの水が降り注ぎ、女の子が悲鳴を上げた。
 お母さんが困っていると思った瑠花は、思わず玄関を開けてしまった。

 よく考えれば変だったのに。
 火災報知器が鳴ってすぐ15階に火事だと知らせに来られるわけがないのに。

「見ぃつけた」
「えっ?」
 玄関の覗き穴からは見えなかったフードを被った若い男に瑠花の身体はビクッと反応する。
 慌てて扉を閉めようと手を掛けたが、虎二郎に足で軽く止められてしまった。

 この人、どこにいたの?
 覗き穴から全然見えなかったのに。

「その服かわいいね」
 ニヤッと笑う虎二郎の笑顔に寒気がする。
 蓮に連絡しようとスマホを胸の高さまで上げると、手をパンと叩かれスマホが玄関に落ちた。

「一緒に行こう」
 手首を掴まれ、玄関から引きずり出される。

「やっ、止め……」
「あぁ~、その顔かわいい。堪んない」
 すっごく探したんだよとニッコリ笑う虎二郎から逃げようと瑠花は必死で抵抗した。
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