スパダリ救急救命士は、ストーカー被害にあった雑誌記者を溺愛して離さない~必ず君を助けるから。一生守るから俺の隣にいろ~
 本当は振り向いて蓮に抱きついて、背中をポンポンとしてあげたい。
 殴るのを我慢した蓮に偉いねって言ってあげたい。
 でも瑠花は下につくまで、震える蓮に何も声をかけてあげることができなかった。

「ありがとうございます。消防士さん」
「あちらのテントの人の指示に従ってください。できるだけ急いでここから離れてください」
 言われた傍からパリンという音が響き渡る。

 上の方から火が上がっていたマンションは、エレベータが落ちたせいで下からも火が上がり始めた。
 真っ黒な煙が直接ここに来ているわけではないのに、燻されたような臭いで喉も痛い。

 6階に置き去りにしてしまった警察官たちは大丈夫だろうか?
 また上がっていくはしご車を見上げながら瑠花は警察官たちの無事を祈った。

 こちらですと手を振ってくれる消防士のもとへ蓮に支えてもらいながら歩いていると、たくましい蓮の上半身に釘付けなお姉様とマダムの熱い視線を感じる。

 見ますよね?
 つい見ますよね?
 自分だけが変態ではないと言い聞かせるように瑠花は心の中で唱えた。

「怪我の症状は」
「彼女の右肩はおそらく脱臼している。右足は腫れていないので捻った程度、あと太ももと肘に擦り傷と打撲」
「では、あちらで応急処置を」
「私は大丈夫です。他の人たちを先に」
 ガラスで怪我をした人、転んだのだろうか、膝をけがしている男の子。
 周りは怪我人だらけだ。
 大丈夫だからと蓮に伝えると、蓮はそうかとようやく少しだけ笑ってくれた。

「あっ、でもTシャツを返さないと……?」
「いや、取るときも痛いだろう。病院へ行くまでそのままで」
 ということは、しばらくその上半身は見たい放題……!
 どうかした? と聞かれた瑠花は真っ赤な顔を隠せないままなんでもないと首を振った。
 緊急事態なのに不埒な女でごめんなさい。
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