向日葵の園
そっとドアを開ける。
白いレースのカーテンはお行儀良くタッセルで左右にまとめられていて、
雨の雫が涙のように流れる窓を背景に、
綴がピアノを奏でている。

綴は小学生の頃からピアノを習っている。
コンクールで何度も入賞するほどの腕前だった。

お姉ちゃんが先にベッドルームを決めていたから、綴はすごく羨ましがっていたっけ。

「綴」

「…ひま。随分居ないから心配したんだよ。日和さんも憂さんも居ないしさ」

「ごめん。これからのこと話してたんだ」

「そっかぁ」

綴はピアノを奏で続けている。
美しくて、どこか悲しげなメロディーを。

「その曲、なんだっけ」

綴は有名な音楽家の名前と、クラシックには疎い私には覚えにくいタイトルを教えてくれた。
頭の中にはぼんやりと、音楽室の壁に掛けられている肖像画が浮かんだ。
たぶん、あの人で合っているはず。

「きれいなメロディーだね」

「聴いたことあるでしょ。これね、″夜を想わせる″曲なんだって」

「だから悲しいっていうか、寂しげな感じするんだね」

「静かで幻想的で、誰にも邪魔されない二人だけの世界って感じもするけどね。私には叶わない恋の曲に聴こえるんだ」

「…そうだね」

「ひま。都の足、どうなっちゃうんだろうね。ヘリなんて本当に来てくれるのかな」

「映画みたいだよね」
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