【プロット】五年越しのプロポーズ(仮)
空港のVIPラウンジの出口付近(夜)

イベントが無事に終わり、ヒロイン・彩香(26)は仕事を終えて空港の託児所に向かっていた。

「今日は大きな問題もなく終わってよかった……」

彼女の勤務先では、イベントやVIP対応のある社員向けに、空港内の提携託児所を利用できるシステムがあった。
彩香は、そこに息子の悠真(4)を預けていたのだ。

「悠真、待たせちゃったね」
「ううん! 先生と一緒に遊んでたよ!」

無邪気な笑顔を見せる悠真の手を握りながら、彩香は駐車場に向かって歩き始めた。

だが、そのとき──

(あ……ラウンジの前に、誰かいる?)

視線を向けた瞬間、心臓が跳ね上がった。
目の前に立っていたのは、制服姿の男性──橘颯真(32)

(……嘘)

見間違えるはずがない。
五年前、最も愛した男。そして、今も忘れられない、たった一人の人。

颯真もまた、静かに視線を上げ、真っ直ぐにこちらを見つめていた。

沈黙。
まるで時間が止まったような、張り詰めた空気。

彼の瞳が、微かに揺れる。

「……彩香?」

たった一言。
だが、懐かしさと驚きと、言いようのない感情が滲んでいた。

彩香の指先が冷たくなっていく。

(ダメ……逃げなきゃ)

彼が知るべきじゃない。
過去のことも、この子のことも──。

彩香は何も言わずに、悠真の手を引き、足早にその場を離れようとした。

「ママ?」

だが、突然──悠真の足がもつれ、転びそうになった。

次の瞬間、颯真の体が本能的に動いた。

手を伸ばし、転びかけた悠真をしっかりと抱き上げる。

「大丈夫か?」

小さな身体を抱きしめながら、顔を覗き込んだ──。

その瞬間、息をのむ。

目の前の子ども。
くりっとした大きな瞳。自分と同じ、琥珀色の瞳。
そして、どこか見覚えのある、顔立ち。

颯真の心臓が、思い切り揺さぶられる。

(……まさか)

喉が渇くような感覚。
理解が追いつかないまま、彼はゆっくりと顔を上げ、彩香を見た。

彼女は──泣きそうな顔をしていた。

「……待て。まさか、この子は……」

だが、彼の言葉が終わる前に──彩香は震える声で言った。

「やめて」

そのまま、颯真の腕の中から悠真を引き寄せ、何も言わずに空港の出口へと歩き出す。

颯真は、ただ呆然とその背中を見送るしかなかった──。
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