天涯孤独な虐められ眼鏡女子のお仕事は、隣の幼なじみだけにバレている(マンガシナリオ)

1.国護りの巫女

〇東京駅 地下20階(夜)
   まるで平安時代の寝殿を思わせる部屋。
   ライトが少なく薄暗い部屋は御簾で仕切られ、応接の場となっている。
   御簾の奥、畳の上に座る黒髪・白い着物の国護りの巫女(16)の姿は訪問客からはほとんど見えない。
   社長A(58)、正座で深々とお辞儀をしながら
社長A「国護りの巫女様、どうか助言を」
   社長A、じっと返事を待つ。
   国護りの巫女、目を閉じる。

〇須藤家 美弥の部屋(深夜)
   勉強机の上に高校数学の教科書、問題集、ノート。
   須藤美弥(16)、引詰め髪にスウェット上下で必死に数式を解く。シャープペンをぽいっとノートの上に放り投げ、髪をボサボサにしながら
美弥「終わらない、終わらない、課題終わらないーー!」
   時計は1:57。
美弥「無理だよ、もぉ。なんで期末テストなんてあるの?」
   美弥、立ち上がり窓のカーテンからそっと隣を覗く。
   隣の家の窓の電気は消えている。
   美弥、溜息をつきながらカーテンを戻し、
美弥「翔ちゃんは天才だからいいよね。どうせまた一番でしょ」
   美弥、勉強机に戻る。
   ×  ×  ×
   美弥、宿題をやりかけのまま寝落ち。

〇高校 教室
   チャイムが鳴り、数学のテスト解答用紙が集められる。
   美弥、規則通りの制服に引詰め髪、瓶底眼鏡で机に顔をくっつけながら絶望。
美弥「……オワッタ」
美弥М『追試確定』
   間宮翔(16)、美弥の横を通過しながら、目の前に飴を置く。
翔 「おつかれ」
   翔、友人たちと教室を出ていく。
   美弥、ぼんやりと飴を見ながら
美弥М『あ、私の好きな飴だ』
   美弥、ゆっくりと飴に手を伸ばす。
   女子生徒①(16)、美弥の手をパンッと叩きながら
女子生徒①「間宮くんの飴に触らないで」
   女子生徒②(16)、飴を取り上げながら
女子生徒②「この飴、あんたにはもったいないわ」
   美弥、起き上がり、叩かれた手をさする。
美弥М『わたしがもらったのに』
   クラスメイトたち、面倒ごとには巻き込まれたくないと、そそくさと教室を出ていく。
   綾小路琴葉(16)、女子生徒②から飴を受け取りながら
琴葉「翔さんったら、こんな飴がお好きなのね」
   琴葉、うれしそうにポケットに入れる。
   琴葉、美弥を見下ろしながら
琴葉「幼なじみ……だったかしら?」
美弥「そうです」
   琴葉、美弥を上から下までじろじろと眺めた後、馬鹿にしたように鼻で笑う。そのまま教室の外へ。
   女子生徒①と女子生徒②、琴葉を追いかける。
美弥「なんなの?」
美弥М『飴、食べ損ねたし』
   美弥、溜息をつきながら鞄を持って立ち上がる。

〇同 昇降口
   美弥の下駄箱から靴がなくなっている。
   美弥、近くの下駄箱を見渡すが見つからない。
美弥「……うわ、最低」
   美弥、昇降口に置いてあるメダカの水槽の中に浮いている黒い靴を発見し、近づく。
   靴の中にもメダカが入り、ピチピチ泳いでいる。
美弥「メダカが可哀想」
   美弥、メダカを水槽に戻し、ベタベタの靴を取り出す。足を入れるとグチョッと鳴る。
   美弥、濡れた靴を履き、昇降口を出る。

〇同 運動場・サッカー場
   美弥、運動場の横を通り、サッカー場で部活をしている人たちを横目に門の方向へ歩く。
   美弥、練習中の翔が視界に入り、
美弥「成績は学年一位、サッカー部は全国大会出場……」
   サッカー部を見ている女子生徒たちの中に、琴葉、女子生徒①、女子生徒②の姿がある。
   美弥、肩をすくめながらグッチョグッチョと鳴る靴で帰宅。

〇須藤家 玄関
   美弥、玄関扉を開ける。
   間宮幸一郎(68)、玄関で待ち構えている。
   美弥、苦笑しながら
美弥「……今日も、ですか?」
   幸一郎、美弥の濡れた靴に気づき、眉間に皺を寄せる。
幸一郎「なんと罰当たりな」
   美弥、濡れた靴と靴下を玄関で脱ぎながら
美弥「数学が追試確定なんです」
   幸一郎、溜息をつきながら
幸一郎「高校など行かなくても」
美弥「……行きたいんです」
   美弥、悲しそうな顔をしながら濡れた足でペタペタと廊下を歩く。
   ×  ×  ×
   美弥、普段着に着替えて玄関に戻る。
   幸一郎、階段下収納の扉を開けて待っている。
   美弥、階段下収納の中にある長い階段を下りる。

〇同 地下
   下りた先に広がる駐車場には1台の黒い車。
   幸一郎が運転席、美弥が後ろの席に座る。
   車、地下通路を走る。

〇車の中(地下通路)
   幸一郎、運転をしながら、
幸一郎「私はそろそろ引退を考えております」
美弥「え……? 引退?」
幸一郎「えぇ。やはり年には勝てませんな」
幸一郎、バックミラーで美弥の表情を見ながら
幸一郎「息子の幸司と相談し、後継者は孫の湊にしようと」
美弥「湊お兄ちゃん?」
   美弥、驚く。
幸一郎「大学の卒業論文がもうすぐ終わると言っていたので」
美弥「もう大学卒業なんだ」
   美弥、スマホで子供のころの写真を見ながら微笑む。
   写真:7歳ランドセルを背負った美弥と翔、13歳中学生の湊、美弥の母、幸一郎、幸司、幸司の妻。
   車が駐車場に止まる。

〇東京駅 地下20階(夜)
   美弥、禊後、白い巫女服に着替える。御簾の奥、畳の上に座る。
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