指輪
左手の指輪がゆるくなったことに気がついた。

半年ぶりに、
高校の同級生たちとカフェでお茶をした。
いつも誰かが来られない、と言うことが増えたな、と思いながら。

青空が澄み白梅が開いた3月の渋谷は訪れるたびに他人行儀で、
友人たちの話題は、つい先日までは手のかかる小さな子供たちのこと、義理の親とパートナーへの不満、上司の愚痴だったのが、
今日は病気の話ばかりだ。ぎっくり腰になった。最近よくからだがほてるんだけど更年期が近いのかも。誰々ちゃん子宮に筋腫見つかったみたい。

ときめきはもうドラマの中にしかない。夢さえも見られない、テラス席。
みんな声が大きくなったな、と思う。
わたしは、と言えば、

鬱屈した気持ちをカフェラテのカップに沈めながら、
「うんうん、そうだよねー」「わかるー」「実は私も」を繰り返している。
何かを口に出せば「えっ、だってアンタはさー、良いじゃん」って定型文が返ってくる。ちょっと疲れた。
何が「良いじゃん」なのかまるでわからない。
わたしだって、愚痴を言いたいこと、あるのに。

高校の時に決めつけられたキャラクター。
澄んだ空をななめに斬っていった黒い鳥。
春。
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