次期社長の執着愛。 〜御曹司だと知らずに逃げた苦労人女子なのに、社長になって、全力情愛で追いかけてくる。〜


  ***


 食べ終わり、今は食後のデザートを堪能していてその美味しさに幸せを感じていた。


「……ねぇ、聖菜。聞いてもいい?」

「うん。答えられることなら」

「なんであの日、いなくなったの? しかも、私たちが出張でいない日を狙ったよね」

「うん……そうだね。ちゃんと計画してた。もし会ってしまったら、決心が揺らいじゃうと思っていたんだよね。あの時はあそこから離れないといけないと思ってたの、私も。父も」


 一口、水を飲み口の中をスッキリさせてからフゥと心の中で深呼吸をしてから口を開いた。


「当時は、父も私もおかしかったと思う。お互い何かに縋ってた。父は、母の面影がある私を母の代わりにした。きっとそれくらいしんどかったんだと思う。私もそれでいいと思ってしまっていた、父は私が母になると笑ってくれるんだ。母が亡くなる前みたいに笑ってくれた。それが嬉しくて嬉しくて……自分を犠牲にしてでもそれでいいって思って。だけど、このままじゃいけないって思ったことがあったの」


 ここで、あの日の話をしたら瑞希は責任を感じてしまうかもしれないと思ったけど意を決して話す。


「瑞希と居酒屋さんで話したこと、覚えてるかな……『好きな人と身も心も結ばれたい、って思わないの?』って瑞希が私に聞いたの」

「……うん、覚えてるよ。私たちが四人でご飯に行った最後の時だったし、その話をして聖菜の様子が変だったから」

「それに私は答えなかった。答えられなかったのが正解かな……もうあの頃には、私は何度も、何度も父と母として体を重ねてた。その中で二回も中絶したの。今も夢に見るんだ。中絶をした時のこと。同意書を書いた時、当日椅子に座った時の冷たさ、点滴が入ってきて寝ている間にもう思ってるの、起きた時の冷たい気持ち……」

「えっ……」


 そんな言葉が出てくるなんて思わなかったのか聞いた本人も、黙っていた桜志くんたちも驚いている。

 だけど、私は言葉を紡いだ。



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