次期社長の執着愛。 〜御曹司だと知らずに逃げた苦労人女子なのに、社長になって、全力情愛で追いかけてくる。〜


 そんなやりとりがあった数日後の金曜日の夕方。

 私は最後の荷物をカバンに入れると課長室と部長室に挨拶しに行った。


「本当に挨拶しなくてよかったの?」

「はい、本当にお世話になりました。あっ、それとこのことは退職日まで内密にお願いします」

「うん。わかってるよ、だけど寂しくなるわね……それにあなたが抜けちゃうと大変になるわ」

「そんなことはないですよ。これは必要ないかもしれないですが、こちらを」


 課長は「何これ……って、あなた作ったの?」と驚いた顔をされる。


「はい。みなさんできる方ばかりなので必要ないかもしれませんが、私の担当していた業務の基本的なマニュアルにプラスαと取引先との情報と撮影部の方や船長さん方とのやりとりのポイントを書いておきました」

「こんな、大変だったでしょ……本当にありがとう。困った時に使わせてもらうね」

「はい。ぜひ……では失礼します」


 そう言って課長室を出ると、オフィスに戻って「お先に失礼します、お疲れ様です」と言って会社を出た。
 寮に到着して、部屋に戻るとその中は今から着る服だけがハンガーにかかっていた。今日はディナーの後、レストランの近くに最寄駅があるのでその駅から東京へ行きそのまま新幹線に乗る予定だ。

 着る服はこのまま新幹線に乗っても華美じゃないようにパンツスタイルで、カーキグリーン色でレーストップスがついたオールインワンでその上にシフォン生地と花柄レース生地の着丈は腰辺りまでのボレロ。

 それを着て、部屋に忘れ物はないか確認するとカバンを持って部屋を出た。




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