Sugar Radio
「俺、先輩の声聴かないと、
血糖値下がっちゃうんですよね」
「後ろから抱きついて来るなっ!!」
「へへ、隙あり!!」
最近、私は、
変な後輩につきまとわれています -
「『それでは、明日から私達は、修学旅行に参ります。
明日から4日間、パーソナリティーは1年の、』」
放送室のブースで、私は滑らかに喋る。
放送部のお昼の放送だ。
月曜日から金曜日まで、毎日、コーナーを替えながら、昼休みに30分間、パーソナリティーの私が喋り続ける。
「『本日も聴いてくださりありがとうございました』」
私は、ただのほっそいもやしで長いストレートの黒髪の地味子な高校2年生だけれど、
この放送の時だけは、本当の自分でいられる!!
いつもは少し高めの声をアルトにして、ゆっくりと、でもハキハキと喋る。この放送を聴いてくれるひとたちが、少しでも昼休みを楽しめるよう、リラックスできるように。
「あー、やっぱり、
先輩の声、すっごくイイですね!!」
「ちょっと部外者! 何で入って来るんだ!」
私が喋り終えて、マイクのボリュームをオフにしたところで、いつもの後輩が入って来る。
天然なのか柔らかそうな猫っ毛の髪は前髪が重めで、後ろはすっきり短い。切れ長で睫毛の長い二重の釣り目、透き通るような白い肌、最近衣替えして白い開襟シャツになった胸元には校則違反であるはずの銀のクロスが見える。
体格が良くて身長が高い。どこかの運動部なのだろうか。
「何言ってるんですか、先輩。俺、放送部ですよ?」
「え、」
私が慌ててガラス窓の向こうのミキシングルームの同級生に確認すると、同級生はこっくりと頷いて見せる。
「先輩方が明日から修学旅行に行く時のミキシングルーム担当です」
いつの間に……
こないだ、ふらりと私の前に現れた時は、まだ部員ではなかったはずだ。
- 先輩の声に惚れちゃったんです。
私は、思わず胸を押さえる。
「先輩、やっぱり、修学旅行なんて行かないで。
俺、先輩の声、聴かないと、」
弱った声でそう言って、小さな私をうしろからぎゅうううっと抱きしめてくる強く太い腕。ハチミツの香水のにおい。低くかすれた甘い声。
私は思わず、胸に回された腕に、自分の腕を絡めそうになったが、
「もうここ空けないと」
ミキシングルームから出て来た同級生に声を掛けられて、ハッと我に返った。
流されてる!!
私は、あわててその後輩の腕を振りほどいた。彼は傷ついた顔をしていたが、見ないふりをした。だけど、
いつまでも私の肩に、ハチミツのにおいが残っていた。
- 俺、先輩の声、聴かないと。
バカバカしい!!
次の日、
私は京都にいた。同級生たちといっしょに。
たかが修学旅行。たかが3泊4日。
それに、あいつなんて、どこかからぽっと出て来た訳わかんないやつじゃん!
- 修学旅行なんて行かないで。
(電話)
あいつの連絡先なんて知らない。
「次、どこに行くんだったっけ?」
「あそこからバス乗って、」
私はこの修学旅行を思いっきり楽しんで、一生の思い出を作る!!
あいつの事なんて。
あいつの事なんて。
(知るか!!)
- 先輩、血糖値……
夢にまで出て来る? 普通。
「大丈夫? 寝不足?」
「だ、大丈夫」
鏡を見たら酷い顔。顔色は真っ青、目の下には青いクマ。心なしかげっそりしたような。
でも、今日はもう帰る日だし。新幹線の中で寝れば良いし。
夢に、
においや感触があるなんて、知らなかった -
血糖値下がっちゃうんですよね」
「後ろから抱きついて来るなっ!!」
「へへ、隙あり!!」
最近、私は、
変な後輩につきまとわれています -
「『それでは、明日から私達は、修学旅行に参ります。
明日から4日間、パーソナリティーは1年の、』」
放送室のブースで、私は滑らかに喋る。
放送部のお昼の放送だ。
月曜日から金曜日まで、毎日、コーナーを替えながら、昼休みに30分間、パーソナリティーの私が喋り続ける。
「『本日も聴いてくださりありがとうございました』」
私は、ただのほっそいもやしで長いストレートの黒髪の地味子な高校2年生だけれど、
この放送の時だけは、本当の自分でいられる!!
いつもは少し高めの声をアルトにして、ゆっくりと、でもハキハキと喋る。この放送を聴いてくれるひとたちが、少しでも昼休みを楽しめるよう、リラックスできるように。
「あー、やっぱり、
先輩の声、すっごくイイですね!!」
「ちょっと部外者! 何で入って来るんだ!」
私が喋り終えて、マイクのボリュームをオフにしたところで、いつもの後輩が入って来る。
天然なのか柔らかそうな猫っ毛の髪は前髪が重めで、後ろはすっきり短い。切れ長で睫毛の長い二重の釣り目、透き通るような白い肌、最近衣替えして白い開襟シャツになった胸元には校則違反であるはずの銀のクロスが見える。
体格が良くて身長が高い。どこかの運動部なのだろうか。
「何言ってるんですか、先輩。俺、放送部ですよ?」
「え、」
私が慌ててガラス窓の向こうのミキシングルームの同級生に確認すると、同級生はこっくりと頷いて見せる。
「先輩方が明日から修学旅行に行く時のミキシングルーム担当です」
いつの間に……
こないだ、ふらりと私の前に現れた時は、まだ部員ではなかったはずだ。
- 先輩の声に惚れちゃったんです。
私は、思わず胸を押さえる。
「先輩、やっぱり、修学旅行なんて行かないで。
俺、先輩の声、聴かないと、」
弱った声でそう言って、小さな私をうしろからぎゅうううっと抱きしめてくる強く太い腕。ハチミツの香水のにおい。低くかすれた甘い声。
私は思わず、胸に回された腕に、自分の腕を絡めそうになったが、
「もうここ空けないと」
ミキシングルームから出て来た同級生に声を掛けられて、ハッと我に返った。
流されてる!!
私は、あわててその後輩の腕を振りほどいた。彼は傷ついた顔をしていたが、見ないふりをした。だけど、
いつまでも私の肩に、ハチミツのにおいが残っていた。
- 俺、先輩の声、聴かないと。
バカバカしい!!
次の日、
私は京都にいた。同級生たちといっしょに。
たかが修学旅行。たかが3泊4日。
それに、あいつなんて、どこかからぽっと出て来た訳わかんないやつじゃん!
- 修学旅行なんて行かないで。
(電話)
あいつの連絡先なんて知らない。
「次、どこに行くんだったっけ?」
「あそこからバス乗って、」
私はこの修学旅行を思いっきり楽しんで、一生の思い出を作る!!
あいつの事なんて。
あいつの事なんて。
(知るか!!)
- 先輩、血糖値……
夢にまで出て来る? 普通。
「大丈夫? 寝不足?」
「だ、大丈夫」
鏡を見たら酷い顔。顔色は真っ青、目の下には青いクマ。心なしかげっそりしたような。
でも、今日はもう帰る日だし。新幹線の中で寝れば良いし。
夢に、
においや感触があるなんて、知らなかった -