叶わぬ彼との1年先の縁結び

ep.8 向き合ってもいいの……?

初詣で願ったことはきっと叶った。
実家の店には救いの手が差し伸べられた。

願い事とは関係ないことも起こった。

なぜかその日、私の目の前には素敵な人が現れて、いつの間にかその人は私の婚約者になっていた。

でもその人は、私を望んではいなかった。
私はその人を望んではいけなかった。

そう思っていたのに……


「控えめな君のことをもっと知りたい。もっと話して欲しい」

「俺のことも、君に知って欲しいんだ」

突然そんなことを言われても、私にどうしろと言うの……?

「どうすれば良いのか、わかりません……」

穂乃花さんを想っているのに、どうしてそんな矛盾した事を私に伝えてくるの?

「俺のせいで君が傷ついている事に、気がついた」

「えっ……?」

「紗雪」

ビクッと反応してしまった。
突然そんな風に呼んでくるなんて……

「俺は、君をこう呼びたいんだよ」

三雲さんが優しい表情で私を見つめている。

「最初の……約束……」

震える声で、ポツリと言葉がこぼれた。

「あと1年……穂乃花さんを想いたいって……」

この人にとって一番大事なことを、傷ついた原因みたいに伝えてしまって……もう、嫌われてしまうかもしれない。

「……あの時の言葉が、君を1歩引かせてしまっていた」

なのに、三雲さんは心配しているみたいに私を見つめ続けていた。

「自分でも最低だと思うけど、それと紗雪のことを知りたいと思うのは、別の事だと思っていた」

「でも、それって……」

「穂乃花のことは、忘れていくことが前提だったから」

本当に忘れるつもりだったというの……?

「……でも私、器用じゃないから……穂乃花さんとの思い出を邪魔しないように気をつけながら、自分の事を知ってもらうなんて出来ないです……」

抱え込んでいた気持ちが、言葉になってこぼれていく。

「三雲さんのそばには、たとえ見えなくても穂乃花さんがいます」

「それなのに私が近づこうとしたら、三雲さんはきっと鬱陶しく感じるはずです……」

三雲さんが私をじっと見つめてる。 
どうしてそんな悔やんでるみたいな顔をしているの?
< 41 / 139 >

この作品をシェア

pagetop