叶わぬ彼との1年先の縁結び
ep.9 貴方へのお返しプレゼント
◇◇◇◇◇
4月の繁忙期を越えた5月のゴールデンウィークの間も、三雲さんは新設したホテルの運営状況の確認に付きっきりだった。
その甲斐があって、
「何とかトラブルは起きずに乗り切れた」
達成感に満ちた表情をしていた。その分、心配になるほどの疲労感も浮かんでいたけれど。
そして、とうとう婚約者としてお披露目されるパーティーの日がやって来てしまった。
最初のパーティーは、商戦を終えた旅行業界各社の集まる今期の懇親会だった。
パーティーは昼からの開始だった。
会に合わせた色留袖の着付けのために、朝からサロンを訪れていた。
料亭の仕事で着付けには慣れていたけれど、今回のような場にふさわしい色留袖の着付けにはプロの手が必要だった。
三雲さんが選んだという留袖は、白地に近い淡い水色の布地に、白い花の文様が描かれていた。
「本当は雪の文様が良かったけど、季節が春だからなぁ」
なんとなく雪が連想できるから、この着物を選んだそうだ。
ドレスではなくて着物を選んだ理由については、
「着物の方が布面積が多くて安心だからな。紗雪は若くて可愛いから、男共がジロジロ見てきたら俺はぶん殴ってしまいそうだから」
などと物騒なことを言っていた。
ヘアメイクも着付けも完成すると、パーティースーツに前髪をさらりと流した三雲さんが入ってきた。
フォーマルな装いは、すらりとしたスタイルの良さを引き立たせていた。
髪も瞳も濡れたような漆黒に輝き、クールな貴公子のようだった。
「すごく似合ってるよ。やっぱり可愛いな」
好きな人を見るような微笑みで、そんな事を言われたら……
すると、彼は私の前にリングケースが差し出された。
ケースの中には、2ヶ月前に作りに行った婚約指輪が納められていた。
「遅くなったけど、きちんとした機会に渡したかったから」
指輪を受け取ると、内側に何か文字が刻印されていて……
──2人のイニシャルと、出会った日の日付が刻まれていた──
「三雲さん……」
「紗雪、また戻ってる」
困ったように微笑みながら私を見つめている。
(こんなことされたら……私……)
目の前が滲んでいくのを感じて、メイクを落とさないように必死で堪えた。
視界を滲ませ、動けないでいる私の左手に、三雲さんの指先が触れた。
「俺と紗雪の縁が繋がった日だから」
2人の出会った日が刻まれた婚約指輪が薬指でまぶしい輝きを放った。
「紗雪」
そう呼ばれた瞬間、ふわりと抱き寄せられた。
(三雲さんに……)
抱きしめられたのは初めてだった。
着物の上からでも、スーツの上からでも温かさを感じられた。
もう想いを抑えきれなくて……
(私、三雲さんのことが好き……)
この想いはもう止めることは出来ない。
「……雅之さん」
自然と言葉がこぼれた。
引き寄せる腕に力が入って、強く抱きしめられていた。
涙を堪えることはもう出来なかった。
4月の繁忙期を越えた5月のゴールデンウィークの間も、三雲さんは新設したホテルの運営状況の確認に付きっきりだった。
その甲斐があって、
「何とかトラブルは起きずに乗り切れた」
達成感に満ちた表情をしていた。その分、心配になるほどの疲労感も浮かんでいたけれど。
そして、とうとう婚約者としてお披露目されるパーティーの日がやって来てしまった。
最初のパーティーは、商戦を終えた旅行業界各社の集まる今期の懇親会だった。
パーティーは昼からの開始だった。
会に合わせた色留袖の着付けのために、朝からサロンを訪れていた。
料亭の仕事で着付けには慣れていたけれど、今回のような場にふさわしい色留袖の着付けにはプロの手が必要だった。
三雲さんが選んだという留袖は、白地に近い淡い水色の布地に、白い花の文様が描かれていた。
「本当は雪の文様が良かったけど、季節が春だからなぁ」
なんとなく雪が連想できるから、この着物を選んだそうだ。
ドレスではなくて着物を選んだ理由については、
「着物の方が布面積が多くて安心だからな。紗雪は若くて可愛いから、男共がジロジロ見てきたら俺はぶん殴ってしまいそうだから」
などと物騒なことを言っていた。
ヘアメイクも着付けも完成すると、パーティースーツに前髪をさらりと流した三雲さんが入ってきた。
フォーマルな装いは、すらりとしたスタイルの良さを引き立たせていた。
髪も瞳も濡れたような漆黒に輝き、クールな貴公子のようだった。
「すごく似合ってるよ。やっぱり可愛いな」
好きな人を見るような微笑みで、そんな事を言われたら……
すると、彼は私の前にリングケースが差し出された。
ケースの中には、2ヶ月前に作りに行った婚約指輪が納められていた。
「遅くなったけど、きちんとした機会に渡したかったから」
指輪を受け取ると、内側に何か文字が刻印されていて……
──2人のイニシャルと、出会った日の日付が刻まれていた──
「三雲さん……」
「紗雪、また戻ってる」
困ったように微笑みながら私を見つめている。
(こんなことされたら……私……)
目の前が滲んでいくのを感じて、メイクを落とさないように必死で堪えた。
視界を滲ませ、動けないでいる私の左手に、三雲さんの指先が触れた。
「俺と紗雪の縁が繋がった日だから」
2人の出会った日が刻まれた婚約指輪が薬指でまぶしい輝きを放った。
「紗雪」
そう呼ばれた瞬間、ふわりと抱き寄せられた。
(三雲さんに……)
抱きしめられたのは初めてだった。
着物の上からでも、スーツの上からでも温かさを感じられた。
もう想いを抑えきれなくて……
(私、三雲さんのことが好き……)
この想いはもう止めることは出来ない。
「……雅之さん」
自然と言葉がこぼれた。
引き寄せる腕に力が入って、強く抱きしめられていた。
涙を堪えることはもう出来なかった。