策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい
その週末、瑠璃のスマホにLINEが届いた。


祐 土曜、空いてますか?

瑠璃は、しばらく既読もつけずに画面を見つめた。
職場ではああ言っていたくせに、なんでまた……。

瑠璃 どうして?

即既読がつく。
そして、数秒後に返ってきた。

祐 行ってほしい展示会があるんです。先輩と見たいと思って。
そのあと、ちょっといいお店も予約してます

「……予約って」
瑠璃は、思わず声に出してしまう。

(何この流れ……まるでデートみたいじゃない)

祐 行きたくないですか?

その問いに、瑠璃は少し考えたあと、指を動かす。

瑠璃 ……別に、行ってもいいけど

数秒後、スタンプ。
祐 やった😏

その顔文字に、瑠璃はスマホを伏せて深いため息をついた。


そして土曜日。
待ち合わせ場所には、私服姿の祐が立っていた。
白シャツに淡いグレージャケット。清潔感と抜け感のあるカジュアルスタイルに、周囲の視線もちらちら集まっていた。

「先輩、こっちです」
手を軽くあげる祐。

「……目立ちすぎ」
瑠璃は、まるで言い訳のように小さく呟いた。

「今日の先輩も、すごく素敵ですけどね」
「……調子いい」
「本音ですよ?」

展示会では、祐はまるでデートのように瑠璃に付き添い、隙あらば少し近づいてくる。
さりげなく、肩が触れる距離。

「この絵、好きですか?」
「……うん。色がいい」
「俺も。なんか、先輩の雰囲気に似てます」
「……どこが?」
「最初は静かに見えるけど、見てると心を持っていかれるとこ」

瑠璃は目をそらす。
また言ってる。
でも、――ずるい。そう思う。


展示会のあと、祐が連れていったのは、静かなレストランバーだった。

席に着いて、注文が終わると、祐はグラスの水をひとくち飲んでから言った。

「……先輩。今日、一日俺といて、どうでした?」
「…別に、普通」
「そっか。俺は、すごく良かったです」
「なんで」
「ずっと一緒にいられるから」

祐の目はまっすぐだった。
甘いだけじゃない。底が知れない。けど、熱がある。
瑠璃は視線をはずした。

「そんな顔、職場じゃ見せてくれないですよね」
「……だって職場だし」
「じゃあ、もっとこうやって二人きりの時間を増やしましょう。俺、先輩のこと、もっと知りたいですから」

そう言って、祐はグラス越しに微笑んだ。
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