策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい
「ちょっとトイレ行ってきます」

祐は笑顔を作って席を立った。
上司たちはすでに酔いが回っていて、祐がいなくても気づかない。

歩きながら、再び店内をさりげなく見渡す。
遠くの卓。
あの黒髪の美女が、グラスを片手に男たちの笑いに合わせて笑っている。

──どう考えても、湯田中瑠璃に見えた。
けれど、祐はまだ確信が持てなかった。

(俺の見間違いか?)

だが、気になって仕方ない。
一度気になったことを放っておけるほど、祐は鈍感ではない。

トイレへ向かうふりをして、ゆっくりとその卓に近づく。
数歩ごとに心臓が小さく跳ねるのを、自分で可笑しく思う。

──近づくにつれて、ますます思った。

めちゃくちゃ綺麗だ。

大きく大胆に空いた胸元と背中。
普段のシャツにジャケット姿とはまるで別人。
柔らかそうな髪が肩に流れ、きらきらしたライトに照らされて艶めいている。
胸もかなり大きい。
スカートは信じられないくらい短く、その長い脚がクロスして揺れるたび、周りの男たちの視線が釘付けになっていた。

(……本当に先輩か?)

あんなに無頓着だった人が、こんな格好を?

一瞬、自分を疑う。
祐は立ち止まり、店内のライトが作る影の中で息を潜めた。
距離はもう数メートル。
けれど、あまりに雰囲気が違いすぎて、決定的な確信がまだ持てない。

祐の視線を感じたのか、その女性がふと目を上げた。

その瞳は、確かに──

湯田中瑠璃のものだった。

祐の胸が、ドクン、と大きく鳴った。
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