策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい
瑠璃は、祐の胸に顔を押しつけたまま、小さな声で呟いた。

「……私だって……」

祐はゆっくり髪を撫でる手を止めた。

「私だって…きちんとお化粧して、ちゃんとモテた時期もあったの」

祐は目を細める。

「知ってますよ。先輩、めちゃくちゃ綺麗ですもん」

「でも……モテすぎちゃって…」

瑠璃の声がかすかに震えた。

「ストーカーになった人、何人もいたの。付き合ってもいないのに……」

祐は、ぎゅっと腕に力を込めた。

「……それは、怖かったですね」

「怖いよ……。だから、誰かに期待されるのも、甘えられるのも、すごく怖いの」

瑠璃が顔を上げると、祐はまっすぐに彼女を見つめていた。

「なのに……なんで祐くんは、そんなに器用なの?」

「器用?」

「だって、いつも自然に女の子に優しくできて…自分は傷つかないみたいに平気でいて……。どうしてそんなことできるの?」

祐は、ふっと息を吐いて、小さく笑った。

「俺だって、平気じゃないですよ」

「嘘」

「ほんとです」

祐は瑠璃の頬に指を這わせる。

「俺はずっと考えてます。どうしたら人生うまく立ち回れるか。人に嫌われずに得するか。でも……先輩だけは、それじゃ済まないんです」

「どういう意味?」

「先輩にだけは、本当の俺を見てもらいたいんです」

瑠璃が目を丸くする。

祐は微笑んだ。

「だって俺、先輩のこと本気で好きだから」

瑠璃は一瞬、言葉を失ってから、祐の胸をそっと押した。

「……祐くんに、私にはもったいないよ……」

祐の目が優しく細まる。

「じゃあ、教えてください。俺にしか話せないこと、いっぱい教えてください」

「……」

「そして俺だけに甘えてください」

「そんなの……無理…」

「無理じゃないです」

祐はそっとキスを落とした。今度は短く、軽いキス。

「先輩が怖いっていうなら、俺が守ります」

「……ずるい…」

「ずるい男なんです、俺」

瑠璃は俯いたまま、ぽつりと呟いた。

「……祐くん、私のこと、本当に好きなの?」

祐はすぐに答えた。

「本気です。先輩の全部が、欲しいんです」
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