策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい
翌朝。

瑠璃がうっすらと目を開けると、まだカーテンの隙間からしか陽が射さない薄暗い室内で、祐がすぐ隣でこちらを見つめていた。

「……祐」

「おはようございます、瑠璃」

祐は瑠璃の頬を指先でそっとなぞり、愛おしそうに笑った。

「やだ……そんなに見ないで」

「ずっと見てたいんです」

瑠璃は枕に顔を埋めようとしたが、祐が引き戻す。

「逃げないでください。せっかく可愛い瑠璃を独り占めできる時間なんですから」

「……昨日、あんなにしたのに」

囁く瑠璃の耳元に、祐がわざと熱い息を吹きかける。

「瑠璃が可愛すぎて……寝てる間もずっと抱きしめてましたよ」

瑠璃の心臓がドクン、と高鳴る。

「……やだ、ほんとに……」

「変態でいいです。瑠璃限定の」

祐はふわりとキスを落とす。それは軽いくせに、唇の熱と甘さがじわりと伝わり、瑠璃は目を閉じて受け入れた。

「……もう、祐に勝てる気がしない……」

「勝たなくていいです。ずっと俺に甘えてください」

そう囁きながら、祐の手はまた布団の中で瑠璃の腰をそっと抱き寄せる。

「……んっ……」

「朝からしたくなるの、瑠璃のせいです」

「や……祐、まだホテルのチェックアウト時間……」

「間に合います」

祐の返事は即答で、しかも笑顔だった。

「だめ……昨日もすごかったのに……」

「今まで足りなかった分を、埋めているだけです」

そう言って祐は、もう一度深くキスを落とした。唇だけでなく、舌先まで絡めて、甘く息を奪うように。

「……っふ……ん……」

瑠璃の細い指が、祐の腕にぎゅっとしがみつく。

「瑠璃、もっと声聞かせてください」

「やだ……」

「可愛いのに」

祐の指先が、瑠璃の薄い部屋着の中をそっと探る。そこから先は、熱と愛おしさだけが支配する、甘くとろける時間だった。


---

二人はまだベッドの上で寄り添ったまま、祐が瑠璃の髪を撫で続けていた。

瑠璃はしばらく黙っていたが、ぽつりと声を落とす。

「……祐」

「ん?」

「その……面倒見るって話、なんだけどね」

祐は少し笑って瑠璃を覗き込む。

「うん、俺、本気ですから」

瑠璃は視線を外し、小さく息を吐いた。

「……弟たちが、卒業するまで待ってくれない?」

祐は一瞬だけ黙り込んだ。しかしすぐに優しい笑みを浮かべる。

「……なんで?」

「祐に甘えるの、すごく楽で、幸せで……でもね、私、自分でなんとかしたいって気持ちもあるの」

瑠璃の声が、枕に吸い込まれるように小さくなる。

「……今すぐ祐に全部頼っちゃったら、きっと楽なんだと思う。でも、私が頑張らないで甘えるのは、弟たちのためにも自分のためにも、たぶんダメだと思うの」

祐はしばらく何も言わず、ただ瑠璃の肩を抱きしめる腕に力を込めた。

「……俺、待つの苦手なんですけど」

「知ってる……」

「でも、瑠璃がそう言うなら、待つしかないですね」

瑠璃は少し目を見開き、祐を見つめる。

「いいの……?」

「いいわけないですけど。でも俺、先輩がやりたいようにやれる人でいてほしいから」

祐は額を瑠璃の額にそっと重ねる。

「ただし約束してください。弟さんたちが卒業したら、俺にちゃんと甘えてください」

「……わかった」

「それまでも、ちゃんと俺の隣にいてくださいね。恋人として」

「……祐、ずるい」

「よく言われます」

瑠璃がかすかに笑った。祐も同じように微笑み、再び瑠璃の唇に優しく口づけを落とした。

「待つのは苦手だけど……その分、卒業したら、覚悟しておいてくださいね」

「……なんの覚悟よ」

「いろいろです」

そう言って祐が悪戯っぽく笑うと、瑠璃は頬を赤く染めて、ふわりと笑った。

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