策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい
祐の目の前で、その嬢──はふっと微笑んだ。

口元だけで、プロの笑顔。
艶っぽくもなく、媚びすぎることもなく、完璧に作られた営業用の表情。

そして、スッと視線を逸らす。

「ほんとぉ? それじゃあ今度、連れてってくださいよ」

祐ではない隣の客に、甘えた声を出しながら身体を少しだけ寄せる。大きな胸が客の腕に触れるか触れないか。
男たちは思わずその胸をみる。そして、歓声をあげ、ますます盛り上がる。
グラスが揺れ、シャンパンの泡が弾ける音が響いた。


(……は?)

祐は思わず立ち尽くした。
自分の視界から彼女が消えたわけじゃない。
でも、完全に“いないもの”として扱われたのだ。

(なんで、俺が他の男と同じ扱いされてんの?)

頭では分かっている。
素性がバレるのは面倒だ。
今ここで個人的に話しかけられても困るのは当然だ。

分かってはいるのに──

祐は、自分でも驚くほどイラついていた。


無頓着で、仕事しか見ていなかった湯田中先輩はどこに行った。
こんな短いスカートを履いて、他の男に笑いかける人だったか。
そして、よりによって俺を「ただの客」として無視するなんて。

祐はゆっくり息を吐いた。
笑いが、喉の奥で引っかかる。

(面白いじゃん、先輩)

祐の瞳がすっと鋭く細まった。
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