組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
「すんません。神田さん、百合香さん。とりあえず他のみんなが来る前にテーブルへこれ、並べるの手伝ってもらえませんか?」
芽生の曇った表情を一掃するみたいに佐山が言って、キッチンの作業台に所狭しと置かれたご馳走を指さす。
「あとでピザも届きますんで」
リビングダイニングに置かれた大きなテーブルへ、いつもは掛かっていないテーブルクロスが掛けられているのもきっと、佐山の手配によるものだろう。
「本当は皆さんがいらっしゃる前に俺の方で全部並べておきたかったんっすけどね、そいつが邪魔するもんで……」
言って、芽生の腕に抱かれたままの殿様へ視線を流す佐山に、芽生と百合香が「あー」と納得した声を出した。
京介に、とりあえずホストとして男性陣と殿様を任せた芽生は、百合香とともに佐山の采配のもと、料理をテーブルへと運んでいく。
「これ、ブンブ……さ、やまさんが全部作ったの?」
危うくブンブンと呼び掛けそうになって、佐山からキッと睨まれた芽生は、京介をチラチラと窺い見ながら〝佐山さん〟とぎこちなく言い直した。
「なぁに? 芽生ちゃんは佐山さんのこと、あだ名で呼んでるの?」
芽生の問いかけに「ええ、まぁ」と答える佐山へ被せるようにローストチキンの器を捧げ持った百合香から尋ねられて、佐山と二人して口元に手を当ててシーッとすると、「カシラが機嫌悪くなるんでこの話は無しで」と佐山が小声で告げた。
「でないと私、千崎さんのことを〝ユウユウ〟って呼ばなきゃいけなくなるんです」
ぼそりと補足説明した芽生に、百合香が一瞬真ん丸な目をしてからププッと吹き出した。
「なぁーに? その、パンダみたいな名前っ!」
佐山と二人、「話の要点、そこじゃないです!」と突っ込んだのは言うまでもない。
***
佐山が作ってくれた豪華なパーティー料理と、追加で届いた宅配ピザ。
テーブルの上を見たとき、(こんなに食べられるの!?)と心配した芽生だったけれど、相良組の面々が集まってきて賑やかになってくると、逆に(追加注文がいるんじゃ!?)と心配する羽目になった。
(特に飲み物!)
「あ、あのっ、私……買い出しに……」
どんどん消えていく料理と、増えていく空のボトルに、芽生がそわそわと立ち上がったと同時、「いや、お前が主役なのにそれ、おかしいだろ」と京介が言って、すぐさま周りを見回した。だが、みんなシャンパンやビール、ワインで程よくいい感じに酔っぱらっていて、相良組の面々には、車を出せそうな人間が一人もいなかった。
そもそも今日はみんな飲む気満々。端から車は置いてきていて、いつも運転手を買って出ている石矢や佐山ですら酒を飲んでいた。
「あー、じゃあ私が買って来ようか」
ただ一人、静月とともに車で来ていた長谷川社長が手を挙げるのを見て、芽生は思わず縋りつくような視線で彼を見つめてしまった。
長谷川社長がここを訪ねて来てくれた時から、実は彼に聞いてみたいことがあった芽生である。
内容が内容だったから、誰もいないところで二人きりになれた時、こっそり聞こうと思っていた。だけど、なかなかその機会に恵まれなくてソワソワしていたところへチャンス到来。そう思ったのだけれど……。
当然のように静月が「僕も……」と腰を上げるから、芽生は(そりゃ、そうだよね。新年度、出社してからにしよう)と早々に諦めた。
だが――。
さすがというべきか、芽生のもの問いたげな視線に気付いてくれたんだろう。
長谷川社長が立ち上がりかけた静月を制すると、「なぁ相良、ちょっと神田さんを借りてもいいかな?」と芽生を指名してくれた。
「はぁ? 何でだよ。こいつは今日の主役だぞ?」
途端不機嫌そうに幼なじみを睨みつける京介に苦笑しつつ、長谷川社長が「主役だからこそだ。どうせなら神田さんが口にしたいもん、買う方がいいだろ?」と宥めに入る。
「だったら俺も」
ある意味予想通り。立ち上がった京介を静月にした時と同様片手を挙げて制すると、「相良はこの家の家主だろ。神田さんがいなくなるのにお前まで出かけてどうするんだよ。しっかりしろ、《《組長》》」とわざとらしく京介の役職をちらつかせて悪友の動きを封じてしまう。
京介は芽生の婚約者である前に、相良組の長なのだ。それを言われてしまうと彼が身動きできなくなることを、京介同様会社のトップを担っている長谷川社長は良く知っていた。
幼なじみの言葉にグッと言葉に詰まる京介を横目に、長谷川社長は「静月。悪いんだけど相良をなだめておいてくれるかな?」といつもなら有り得ない提案でダメ押しをする。
「や、でもっ、将継さんっ。僕……」
「静月なら大丈夫」
中腰の静月の額へ、チュッと掠めるだけのキスを落とした長谷川社長に、芽生は思わず真っ赤になったのだけれど……二人のそんな様に気付いていたのは自分と京介だけだった。
他の面々は歓談に夢中で気付いていないのは不幸中の幸いというべきか。
芽生の曇った表情を一掃するみたいに佐山が言って、キッチンの作業台に所狭しと置かれたご馳走を指さす。
「あとでピザも届きますんで」
リビングダイニングに置かれた大きなテーブルへ、いつもは掛かっていないテーブルクロスが掛けられているのもきっと、佐山の手配によるものだろう。
「本当は皆さんがいらっしゃる前に俺の方で全部並べておきたかったんっすけどね、そいつが邪魔するもんで……」
言って、芽生の腕に抱かれたままの殿様へ視線を流す佐山に、芽生と百合香が「あー」と納得した声を出した。
京介に、とりあえずホストとして男性陣と殿様を任せた芽生は、百合香とともに佐山の采配のもと、料理をテーブルへと運んでいく。
「これ、ブンブ……さ、やまさんが全部作ったの?」
危うくブンブンと呼び掛けそうになって、佐山からキッと睨まれた芽生は、京介をチラチラと窺い見ながら〝佐山さん〟とぎこちなく言い直した。
「なぁに? 芽生ちゃんは佐山さんのこと、あだ名で呼んでるの?」
芽生の問いかけに「ええ、まぁ」と答える佐山へ被せるようにローストチキンの器を捧げ持った百合香から尋ねられて、佐山と二人して口元に手を当ててシーッとすると、「カシラが機嫌悪くなるんでこの話は無しで」と佐山が小声で告げた。
「でないと私、千崎さんのことを〝ユウユウ〟って呼ばなきゃいけなくなるんです」
ぼそりと補足説明した芽生に、百合香が一瞬真ん丸な目をしてからププッと吹き出した。
「なぁーに? その、パンダみたいな名前っ!」
佐山と二人、「話の要点、そこじゃないです!」と突っ込んだのは言うまでもない。
***
佐山が作ってくれた豪華なパーティー料理と、追加で届いた宅配ピザ。
テーブルの上を見たとき、(こんなに食べられるの!?)と心配した芽生だったけれど、相良組の面々が集まってきて賑やかになってくると、逆に(追加注文がいるんじゃ!?)と心配する羽目になった。
(特に飲み物!)
「あ、あのっ、私……買い出しに……」
どんどん消えていく料理と、増えていく空のボトルに、芽生がそわそわと立ち上がったと同時、「いや、お前が主役なのにそれ、おかしいだろ」と京介が言って、すぐさま周りを見回した。だが、みんなシャンパンやビール、ワインで程よくいい感じに酔っぱらっていて、相良組の面々には、車を出せそうな人間が一人もいなかった。
そもそも今日はみんな飲む気満々。端から車は置いてきていて、いつも運転手を買って出ている石矢や佐山ですら酒を飲んでいた。
「あー、じゃあ私が買って来ようか」
ただ一人、静月とともに車で来ていた長谷川社長が手を挙げるのを見て、芽生は思わず縋りつくような視線で彼を見つめてしまった。
長谷川社長がここを訪ねて来てくれた時から、実は彼に聞いてみたいことがあった芽生である。
内容が内容だったから、誰もいないところで二人きりになれた時、こっそり聞こうと思っていた。だけど、なかなかその機会に恵まれなくてソワソワしていたところへチャンス到来。そう思ったのだけれど……。
当然のように静月が「僕も……」と腰を上げるから、芽生は(そりゃ、そうだよね。新年度、出社してからにしよう)と早々に諦めた。
だが――。
さすがというべきか、芽生のもの問いたげな視線に気付いてくれたんだろう。
長谷川社長が立ち上がりかけた静月を制すると、「なぁ相良、ちょっと神田さんを借りてもいいかな?」と芽生を指名してくれた。
「はぁ? 何でだよ。こいつは今日の主役だぞ?」
途端不機嫌そうに幼なじみを睨みつける京介に苦笑しつつ、長谷川社長が「主役だからこそだ。どうせなら神田さんが口にしたいもん、買う方がいいだろ?」と宥めに入る。
「だったら俺も」
ある意味予想通り。立ち上がった京介を静月にした時と同様片手を挙げて制すると、「相良はこの家の家主だろ。神田さんがいなくなるのにお前まで出かけてどうするんだよ。しっかりしろ、《《組長》》」とわざとらしく京介の役職をちらつかせて悪友の動きを封じてしまう。
京介は芽生の婚約者である前に、相良組の長なのだ。それを言われてしまうと彼が身動きできなくなることを、京介同様会社のトップを担っている長谷川社長は良く知っていた。
幼なじみの言葉にグッと言葉に詰まる京介を横目に、長谷川社長は「静月。悪いんだけど相良をなだめておいてくれるかな?」といつもなら有り得ない提案でダメ押しをする。
「や、でもっ、将継さんっ。僕……」
「静月なら大丈夫」
中腰の静月の額へ、チュッと掠めるだけのキスを落とした長谷川社長に、芽生は思わず真っ赤になったのだけれど……二人のそんな様に気付いていたのは自分と京介だけだった。
他の面々は歓談に夢中で気付いていないのは不幸中の幸いというべきか。