組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
「芽生ちゃんはさ、ちゃんとハンカチとかポケットティッシュとか持ち歩くタイプでしょう? だから……」
ワオンモールで配っていたポケットティッシュに、盗聴器を忍ばせて芽生の鞄に入れたらしい。
芽生がワオンモールに行けば必ず立ち寄る行きつけの菓子屋付近で、夕方毎日のように張り込んでいた甲斐があったと付け加えられて、それはもはや偶然というより必然だったのでは? と思ってしまった芽生である。
見つけた時点で芽生を捕まえられたらベストだったらしいのが、そうできなかったときに備えての保険が盗聴器だったらしい。
「芽生ちゃんがワオンモール、大好きなのは知っていたし、備えあれば憂いなしっていうでしょ?」
「でもそんなの私がティッシュを使ったら……」
「多分見つかっちゃってただろうね。けど、大丈夫だったでしょう? 盗聴器の電池だってそんなに長くは持たないし、ある種の賭けだったんだ。で、僕はどうやらその賭けに勝ったみたいだね♪」
芽生が京介に引っ立てられるようにしてワオンモールを出た後を、タクシーで追いかけたのだと細波が言う。
「僕の車はさ、良くも悪くも目立っちゃうから」
追跡には不向きだと思ってタクシーにしたらしい。とすると、今日いつもの車じゃないのも同じ理由からということか。
細波は、芽生が思っている以上に悪知恵が働く男なのかもしれない。
「芽生ちゃん、すっごいセキュリティのマンションに住んでるんだもん。びっくりしちゃった。ヤクザって儲からないって聞いてたけど、君の《《パトロン》》は相当上手に稼いでるみたいだね」
言われて、「京ちゃんはパトロンなんかじゃ!」と思わず抗議した芽生だったけれど無視されてしまう。
「新しい住まいは分かったけどなかなか手出しできなくて焦っちゃった。あの男が芽生ちゃんから離れるタイミングを探ろうって思ってたんだけど、待つより作る方がいいかなぁって……路線変更♪」
「作、る……?」
「そう」
細波は芽生が抱えた紙袋に視線を移すと、「《《僕からの》》プレゼント、気に入ってくれた?」
と微笑んだ。
「それって……どういう」
「ん? 芽生ちゃんが帰ってくる時間に合わせて、僕が置いたんだよ、その子。芽生ちゃんたちの動向は、仕掛けた盗聴器で探れてたから、タイミングもバッチリ」
言って、細波が嬉しそうに笑う。
芽生たちが戻ってくる直前に、マンションの車寄せ付近に目立つように段ボール箱を置いたのだと誇らしげに笑って、「ねぇ、芽生ちゃん、知ってる?」と細波が声のトーンを変えた。
「猫ってね、牛乳を飲ませちゃダメなんだ」
「えっ?」
「牛乳に入ってる乳糖って成分をね、猫は分解出来ないんだって。だから飲ませると下痢したり嘔吐したりしちゃう」
家に連れ帰った殿様のお腹がはちきれんばかりに膨らんでいたのを思い出した芽生は、細波を信じられない者を見る目で見詰めた。
「もしかして……この子に牛乳を?」
「馬鹿だよねー。お腹が破裂しちゃうんじゃない? ってくらいたらふく飲んでくれたよ」
「どうして……そんな酷いこと」
「言ったじゃない。あの男と君を引き離したかったって」
「でも……」
殿様が体調不良になっただけなら、京介だけではなく石矢もいた。京介が突然家から出ないといけなくなったのまでは、細波にはコントロールできなかったはずだ。
「前にさ、芽生ちゃんの家に火が付けられたことがあったでしょう?」
いきなり話が飛んで、芽生はわけが分からず細波を見詰める。
「ごめんね。あれ、うちの母親の仕業だったんだ」
「えっ」
「芽生ちゃんが邪魔だったみたい」
細波鳴矢は日本を代表する大企業のひとつ、『さかえグループ』社長の遠縁だと言っていた。確かに、そんな息子が芽生のような親も分からない施設育ちの孤児なんかに熱を上げているのは、彼の母親的には許せなかったのかも知れない。
でも――。
「私が細波さんに好意を抱いてないことは」
「あー、《《逆にそれが問題》》だった、みたいな?」
ますます意味が分からなくて、芽生は殿様の入った紙袋を持つ手に力を込めた。
ワオンモールで配っていたポケットティッシュに、盗聴器を忍ばせて芽生の鞄に入れたらしい。
芽生がワオンモールに行けば必ず立ち寄る行きつけの菓子屋付近で、夕方毎日のように張り込んでいた甲斐があったと付け加えられて、それはもはや偶然というより必然だったのでは? と思ってしまった芽生である。
見つけた時点で芽生を捕まえられたらベストだったらしいのが、そうできなかったときに備えての保険が盗聴器だったらしい。
「芽生ちゃんがワオンモール、大好きなのは知っていたし、備えあれば憂いなしっていうでしょ?」
「でもそんなの私がティッシュを使ったら……」
「多分見つかっちゃってただろうね。けど、大丈夫だったでしょう? 盗聴器の電池だってそんなに長くは持たないし、ある種の賭けだったんだ。で、僕はどうやらその賭けに勝ったみたいだね♪」
芽生が京介に引っ立てられるようにしてワオンモールを出た後を、タクシーで追いかけたのだと細波が言う。
「僕の車はさ、良くも悪くも目立っちゃうから」
追跡には不向きだと思ってタクシーにしたらしい。とすると、今日いつもの車じゃないのも同じ理由からということか。
細波は、芽生が思っている以上に悪知恵が働く男なのかもしれない。
「芽生ちゃん、すっごいセキュリティのマンションに住んでるんだもん。びっくりしちゃった。ヤクザって儲からないって聞いてたけど、君の《《パトロン》》は相当上手に稼いでるみたいだね」
言われて、「京ちゃんはパトロンなんかじゃ!」と思わず抗議した芽生だったけれど無視されてしまう。
「新しい住まいは分かったけどなかなか手出しできなくて焦っちゃった。あの男が芽生ちゃんから離れるタイミングを探ろうって思ってたんだけど、待つより作る方がいいかなぁって……路線変更♪」
「作、る……?」
「そう」
細波は芽生が抱えた紙袋に視線を移すと、「《《僕からの》》プレゼント、気に入ってくれた?」
と微笑んだ。
「それって……どういう」
「ん? 芽生ちゃんが帰ってくる時間に合わせて、僕が置いたんだよ、その子。芽生ちゃんたちの動向は、仕掛けた盗聴器で探れてたから、タイミングもバッチリ」
言って、細波が嬉しそうに笑う。
芽生たちが戻ってくる直前に、マンションの車寄せ付近に目立つように段ボール箱を置いたのだと誇らしげに笑って、「ねぇ、芽生ちゃん、知ってる?」と細波が声のトーンを変えた。
「猫ってね、牛乳を飲ませちゃダメなんだ」
「えっ?」
「牛乳に入ってる乳糖って成分をね、猫は分解出来ないんだって。だから飲ませると下痢したり嘔吐したりしちゃう」
家に連れ帰った殿様のお腹がはちきれんばかりに膨らんでいたのを思い出した芽生は、細波を信じられない者を見る目で見詰めた。
「もしかして……この子に牛乳を?」
「馬鹿だよねー。お腹が破裂しちゃうんじゃない? ってくらいたらふく飲んでくれたよ」
「どうして……そんな酷いこと」
「言ったじゃない。あの男と君を引き離したかったって」
「でも……」
殿様が体調不良になっただけなら、京介だけではなく石矢もいた。京介が突然家から出ないといけなくなったのまでは、細波にはコントロールできなかったはずだ。
「前にさ、芽生ちゃんの家に火が付けられたことがあったでしょう?」
いきなり話が飛んで、芽生はわけが分からず細波を見詰める。
「ごめんね。あれ、うちの母親の仕業だったんだ」
「えっ」
「芽生ちゃんが邪魔だったみたい」
細波鳴矢は日本を代表する大企業のひとつ、『さかえグループ』社長の遠縁だと言っていた。確かに、そんな息子が芽生のような親も分からない施設育ちの孤児なんかに熱を上げているのは、彼の母親的には許せなかったのかも知れない。
でも――。
「私が細波さんに好意を抱いてないことは」
「あー、《《逆にそれが問題》》だった、みたいな?」
ますます意味が分からなくて、芽生は殿様の入った紙袋を持つ手に力を込めた。