組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
自分の跡目から外そうと思っていた細波鳴矢が、《《想定通り》》。『栄一郎さんのお子さんを見つけたかも知れません』と言ってきたのは――。
本来ならば、今日は京介の代わりに鳴矢が孫娘を《《伴侶として》》ここへ連れて来ることになっていた。その時に芽生との馴れ初めついでに、何故長いこと行方不明だった沙奈の娘を見つけることが出来たのかも説明させることになっていた。
だが、突然鳴矢からの連絡がプツリと途絶え、彼の母親の鳴海とも音信不通になってしまった。
そうこうしているうちに、相良京介と名乗る男から、『あんたの孫娘、連れて行くから』と一方的な連絡が入ったのだ。
《《故あって》》、相良京介という男が極道者だと知っていた栄蔵は当然警戒したのだが、メールで送りつけられてきたDNA鑑定書類と、息子の面影を感じさせる芽生の写真を見て、会おうという気になった。
「相良さん、あの鑑定書は」
「細波鳴海が持ってたもんの写しだ。原本は今、うちの組の者が持ってる」
「何故鳴海さんがキミの所へいるのか聞いても?」
「そりゃあ、うちの事務所と管理下の店に火ぃ付けたからだ」
京介があっけらかんと告げた言葉に、芽生は思わず「えっ」とつぶやかずにはいられない。
「ねぇ京ちゃん、それって……」
「放火だ」
今日、京介が慌ただしく家を空けたのはそのせいだったのだと知って、芽生は愕然とする。
「皆さんは……」
「無事だ」
その言葉に芽生がホッとしたのを確認して、京介が黙して芽生とのやり取りを聞いていた栄蔵へ視線を移した。
「実はあんたの可愛い孫もちぃーと前に家へ火ぃ付けられてな。危うく焼き殺されるところだった」
芽生も細波から聞いてあれは放火だったと知っていたけれど、京介がそのことを承知しているのに驚いて瞳を見開いた。芽生からはまだ話していなかったからだ。
それに、焼き殺されそうになっただなんて、大袈裟じゃないだろうか。
「もしやそれも……」
「ああ、鳴海の仕業だ」
「何故鳴海はそんなことを――」
そこでハッとしたように芽生を見つめると、栄蔵が恐る恐る口を開く。
「神田さん、キミ、《《やはり》》鳴矢とは……」
鳴矢の話では、芽生は彼の妻として紹介される予定だった。だが、恐らく。
「しつこく付き纏われてました。今日も……」
そこで言い淀んだ芽生の言葉を京介が継ぐ。
「飼い猫を人質に取られて、無理矢理婚姻届を書かされた」
「それは」
「京ちゃん達が助けてくれなかったら私、今頃……」
そこまで言って恐怖を思い出したみたいに涙目になる芽生を見て、栄蔵がグッと押し黙る。
ややして、栄蔵から「怪我はさせられなかったかい?」と労るように問いかけられた芽生は、懸命に頷いた。
恐らく芽生が息子――鳴矢に靡かなかったから、芽生を亡き者にしようとしたんだろうと京介が続けて、芽生は予想外の言葉に瞳を見開いた。
何らかの理由で芽生が栄蔵の孫だと知った細波母子は、栄蔵が孫の存在へ気付く前に、なんとか芽生を鳴矢の嫁として取り込み、病に伏して余命幾許もない栄蔵の遺産を相続しようと目論んだんだろう。
執拗なまでの鳴矢から芽生へのアプローチは、きっとそういうことだったのだ。
だが、芽生が一向に鳴矢に落ちそうにないばかりか、他の男に懸想していると豪語して憚らない。そう息子から聞かされた鳴海が、《《息子の意思とは関係なく》》『邪魔な跡取りなんていっそ殺してしまえ』と短慮を起こした末の放火だと考えれば……。
確かあの日、芽生は家の中の照明をつけたまま外出していて、火事場に姿を見せた時、立ち入り禁止テープ前――《《最前列にいた》》細波から無事を驚かれ、「良かった」と安堵された。
『出火当時、家に電気が付いたままだったって聞いたから僕はてっきり……』
あの言葉は、『母の放火で焼け死んだのかと思って』と続いていたのでは?
芽生の家が焼け落ちたあの日、細波鳴矢から微かに灯油のにおいがしたのは、放火犯の母親を逃がした際の《《移り香》》だったのかも知れない。
本来ならば、今日は京介の代わりに鳴矢が孫娘を《《伴侶として》》ここへ連れて来ることになっていた。その時に芽生との馴れ初めついでに、何故長いこと行方不明だった沙奈の娘を見つけることが出来たのかも説明させることになっていた。
だが、突然鳴矢からの連絡がプツリと途絶え、彼の母親の鳴海とも音信不通になってしまった。
そうこうしているうちに、相良京介と名乗る男から、『あんたの孫娘、連れて行くから』と一方的な連絡が入ったのだ。
《《故あって》》、相良京介という男が極道者だと知っていた栄蔵は当然警戒したのだが、メールで送りつけられてきたDNA鑑定書類と、息子の面影を感じさせる芽生の写真を見て、会おうという気になった。
「相良さん、あの鑑定書は」
「細波鳴海が持ってたもんの写しだ。原本は今、うちの組の者が持ってる」
「何故鳴海さんがキミの所へいるのか聞いても?」
「そりゃあ、うちの事務所と管理下の店に火ぃ付けたからだ」
京介があっけらかんと告げた言葉に、芽生は思わず「えっ」とつぶやかずにはいられない。
「ねぇ京ちゃん、それって……」
「放火だ」
今日、京介が慌ただしく家を空けたのはそのせいだったのだと知って、芽生は愕然とする。
「皆さんは……」
「無事だ」
その言葉に芽生がホッとしたのを確認して、京介が黙して芽生とのやり取りを聞いていた栄蔵へ視線を移した。
「実はあんたの可愛い孫もちぃーと前に家へ火ぃ付けられてな。危うく焼き殺されるところだった」
芽生も細波から聞いてあれは放火だったと知っていたけれど、京介がそのことを承知しているのに驚いて瞳を見開いた。芽生からはまだ話していなかったからだ。
それに、焼き殺されそうになっただなんて、大袈裟じゃないだろうか。
「もしやそれも……」
「ああ、鳴海の仕業だ」
「何故鳴海はそんなことを――」
そこでハッとしたように芽生を見つめると、栄蔵が恐る恐る口を開く。
「神田さん、キミ、《《やはり》》鳴矢とは……」
鳴矢の話では、芽生は彼の妻として紹介される予定だった。だが、恐らく。
「しつこく付き纏われてました。今日も……」
そこで言い淀んだ芽生の言葉を京介が継ぐ。
「飼い猫を人質に取られて、無理矢理婚姻届を書かされた」
「それは」
「京ちゃん達が助けてくれなかったら私、今頃……」
そこまで言って恐怖を思い出したみたいに涙目になる芽生を見て、栄蔵がグッと押し黙る。
ややして、栄蔵から「怪我はさせられなかったかい?」と労るように問いかけられた芽生は、懸命に頷いた。
恐らく芽生が息子――鳴矢に靡かなかったから、芽生を亡き者にしようとしたんだろうと京介が続けて、芽生は予想外の言葉に瞳を見開いた。
何らかの理由で芽生が栄蔵の孫だと知った細波母子は、栄蔵が孫の存在へ気付く前に、なんとか芽生を鳴矢の嫁として取り込み、病に伏して余命幾許もない栄蔵の遺産を相続しようと目論んだんだろう。
執拗なまでの鳴矢から芽生へのアプローチは、きっとそういうことだったのだ。
だが、芽生が一向に鳴矢に落ちそうにないばかりか、他の男に懸想していると豪語して憚らない。そう息子から聞かされた鳴海が、《《息子の意思とは関係なく》》『邪魔な跡取りなんていっそ殺してしまえ』と短慮を起こした末の放火だと考えれば……。
確かあの日、芽生は家の中の照明をつけたまま外出していて、火事場に姿を見せた時、立ち入り禁止テープ前――《《最前列にいた》》細波から無事を驚かれ、「良かった」と安堵された。
『出火当時、家に電気が付いたままだったって聞いたから僕はてっきり……』
あの言葉は、『母の放火で焼け死んだのかと思って』と続いていたのでは?
芽生の家が焼け落ちたあの日、細波鳴矢から微かに灯油のにおいがしたのは、放火犯の母親を逃がした際の《《移り香》》だったのかも知れない。