組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
32.芽生を手放す覚悟
京介は、芽生の家が放火だと知った時、彼女が自分のせいで命を狙われたんだと思った。
とりあえずは問題が解決するまでの間――。
そう思って、一旦は芽生を自分の住まいに引き寄せて保護してみたものの、自分さえ芽生の傍にいなければ、芽生は焼け出されることもなかったのに……という後悔がずっと消えなかった。
思えば、千崎にもさんざん言われてきたことだ。
『本気で裏社会側へ彼女を引き込む気がないならば、神田さんから離れるべきです』
と――。
『そうしないと、京介にとって神田さんが特別な存在だと周りに知らしめているも同然な現状です。いずれ神田さんがカシラの弱点だと判断されて、貴方のことを快く思わない連中から彼女がターゲットにされる日が来るのも時間の問題だと思いますがね?』
そんなことは京介にだって分かっていたが、自分を慕ってくれる純粋な瞳が愛しくて、なかなか手放してやることが出来なかった。
その結果、芽生が命を落としそうになってしまったのだ。悔やまなかったわけがない。
千崎からも、『だから私が再三申し上げたでしょう』と呆れ顔をされてしまった。
それで、今更にも思えたが……全てが解決したら、今度こそ。芽生から離れようと決意した京介である。
例年ならば懇意にしている花屋に無理を言って、季節外れの冬――芽生の誕生日に合わせてチューリップの生花を注文していたのだが、今年で最後だと思ったら枯れない花を贈りたい、と思ってしまった。
だってこの先、京介は芽生にチューリップを渡せなくなるのだから。
ある意味、京介から芽生への、最後にして最大の執着とでも呼べるものの具現化が、いま芽生が左手薬指に嵌めている指輪だったのだ。
「おたくなら、好きなデザインで指輪、作れるって聞いたんだが――」
ワオンモール内。フランス語で『綴る宝石』を意味するらしい名を冠した『Écri Bijou』という宝石店に出向いたのは、そんな思いがあったからに他ならない。
「はい、出来ます。――お客様、例えばなのですが……どういったモチーフを入れたいなどといったご希望などはおありでしょうか?」
店員に尋ねられ、京介は何の迷いもなく「チューリップ。ピンクのヤツ一輪をデザインに取り入れた指輪が作りてぇなと思ってるんだが」と言っていた。
いつもなら千崎が付き従っているところだが、丁重に断って一人で出向いたのは、女々しくもそんなものを頼んでいる自分を誰にも見られたくなかったからだ。
もしかしたら、芽生を手放す決意をしたというのを、千崎に悟られたくなかったのかもしれない。
(この期に及んで、万が一にも手放せなかった場合を想定をしてんのかよ、俺……)
千崎に、芽生と離れるために餞別代わりの指輪を作るだなんて知られたら、《《芽生を手放さない》》という可能性を完璧に潰されてしまいそうな気がした。
芽生の安全を考えるなら手元に置くべきじゃないのは重々承知しているくせに、それでもやはり今まで通り……いや、今まで以上にがっしりと芽生を囲って自分の庇護下に置けば、問題ないんじゃないかという迷いが生じてしまった。
その時は、『子ヤギは俺にとっちゃー娘みてぇな存在だからな』と、思い込もうとしていた京介だったけれど、今思えばあれはすでに恋着だった気がする。
佐山が芽生と仲良くしていると知って、言いようもない腹立たしさを感じてしまったのだってそうだ。
自分と同じ極道モノに芽生をやるつもりはない、だなんてもっともらしい理由を付けて芽生を責め苛んだけれど、今なら素直にあれは嫉妬だったと認められる。
とりあえずは問題が解決するまでの間――。
そう思って、一旦は芽生を自分の住まいに引き寄せて保護してみたものの、自分さえ芽生の傍にいなければ、芽生は焼け出されることもなかったのに……という後悔がずっと消えなかった。
思えば、千崎にもさんざん言われてきたことだ。
『本気で裏社会側へ彼女を引き込む気がないならば、神田さんから離れるべきです』
と――。
『そうしないと、京介にとって神田さんが特別な存在だと周りに知らしめているも同然な現状です。いずれ神田さんがカシラの弱点だと判断されて、貴方のことを快く思わない連中から彼女がターゲットにされる日が来るのも時間の問題だと思いますがね?』
そんなことは京介にだって分かっていたが、自分を慕ってくれる純粋な瞳が愛しくて、なかなか手放してやることが出来なかった。
その結果、芽生が命を落としそうになってしまったのだ。悔やまなかったわけがない。
千崎からも、『だから私が再三申し上げたでしょう』と呆れ顔をされてしまった。
それで、今更にも思えたが……全てが解決したら、今度こそ。芽生から離れようと決意した京介である。
例年ならば懇意にしている花屋に無理を言って、季節外れの冬――芽生の誕生日に合わせてチューリップの生花を注文していたのだが、今年で最後だと思ったら枯れない花を贈りたい、と思ってしまった。
だってこの先、京介は芽生にチューリップを渡せなくなるのだから。
ある意味、京介から芽生への、最後にして最大の執着とでも呼べるものの具現化が、いま芽生が左手薬指に嵌めている指輪だったのだ。
「おたくなら、好きなデザインで指輪、作れるって聞いたんだが――」
ワオンモール内。フランス語で『綴る宝石』を意味するらしい名を冠した『Écri Bijou』という宝石店に出向いたのは、そんな思いがあったからに他ならない。
「はい、出来ます。――お客様、例えばなのですが……どういったモチーフを入れたいなどといったご希望などはおありでしょうか?」
店員に尋ねられ、京介は何の迷いもなく「チューリップ。ピンクのヤツ一輪をデザインに取り入れた指輪が作りてぇなと思ってるんだが」と言っていた。
いつもなら千崎が付き従っているところだが、丁重に断って一人で出向いたのは、女々しくもそんなものを頼んでいる自分を誰にも見られたくなかったからだ。
もしかしたら、芽生を手放す決意をしたというのを、千崎に悟られたくなかったのかもしれない。
(この期に及んで、万が一にも手放せなかった場合を想定をしてんのかよ、俺……)
千崎に、芽生と離れるために餞別代わりの指輪を作るだなんて知られたら、《《芽生を手放さない》》という可能性を完璧に潰されてしまいそうな気がした。
芽生の安全を考えるなら手元に置くべきじゃないのは重々承知しているくせに、それでもやはり今まで通り……いや、今まで以上にがっしりと芽生を囲って自分の庇護下に置けば、問題ないんじゃないかという迷いが生じてしまった。
その時は、『子ヤギは俺にとっちゃー娘みてぇな存在だからな』と、思い込もうとしていた京介だったけれど、今思えばあれはすでに恋着だった気がする。
佐山が芽生と仲良くしていると知って、言いようもない腹立たしさを感じてしまったのだってそうだ。
自分と同じ極道モノに芽生をやるつもりはない、だなんてもっともらしい理由を付けて芽生を責め苛んだけれど、今なら素直にあれは嫉妬だったと認められる。