組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
何より、そう偽ったことで、京介から可愛い婚約指輪をもらえて、身に余るほどの告白をしてもらえたと思えば、空元気も満更無駄ではなかったと思いたい。
(ふふっ。幸せ♥)
京介とともに医者から渡されたマスクを付けながら、芽生はワオンモールであったことに思いをはせた――。
***
宝石店『Écri Bijou』で、ピンク色のチューリップモチーフの指輪を初めて見た時、最初のうち、芽生は京介がそんな〝一点もの〟を自分のために誂えてくれたのが嬉しくて堪らなかった。
でも、段々と(どうしていつも通り生花じゃないの?)という気持ちが鎌首をもたげて……《《あること》》に思い至った途端、不安に押しつぶされそうになってしまった。
オーダーメイドのアクセサリーなんて、一朝一夕で仕上げられるものではないと思うと、京介の気持ちの固さを思い知らされるようで、泣きたくなった。
注文した当初は芽生が思った通り、芽生から離れるつもりで指輪を作ったのだと吐露した上で、京介は〝すべては過ぎ去ったこと〟だと断言してくれた。全部杞憂だったと知った時の喜び。
それを思い出して、芽生はマスクの中で、ほんのちょっぴり口角を上げた。
***
やはり自覚してしまったのがいけなかったんだろうか。
段々しんどくなってきて、芽生は病院後、車内で力なく窓へ寄り掛かるようにして身体を支えた。
そうしながら、一生懸命しっかり座っていようと頑張ったのだけれど、そんなのお見通しみたいに京介から引き寄せられて、彼の腿の上へ頭を乗せられてしまう。
(ひゃー。京ちゃんの膝枕っ)
現状に、頭の中では忙しなくもう一人の自分が騒いでいるけれど、実際には身体がぐったりと重怠くて、ぼんやりと京介を見上げることしか出来ない。
そんな芽生の視界を塞ぐように京介の大きな掌が目の上へ降りてきて「寝ろ」と促された。
運転席の石矢にも病院でもらったマスクを手渡した京介が、ほんの少しだけ窓を開けて換気を命じる様をぼんやりとした意識の片隅で捉えながら、芽生はトロトロと微睡んだ。
***
帰宅後、すぐさまパジャマに着替えさせられた芽生は、京介から追い立てられるようにして寝室へ入った。
「京ちゃん……」
不安げに瞳を揺らせて京介を見上げたら、京介が「そばにいてやるから安心して休め」と布団を着せかけてくれる。
「でも……」
実は京介も自分も、今マスクをしていない。マスクをしたままは息苦しかったから、外せたこと自体は有難かった芽生だけれど、こんなに京介との距離が近いと彼に感染してしまいそうで怖い。「石矢は帰したんだから、マスクなんざ必要ない」と京介は言ったけれど、芽生としては京介がいる時点で気が気じゃないのだ。
「ひょっとして俺のことを心配してんのか?」
京介がヨシヨシと頭を撫でてくれながらそう問い掛けてくるから、小さく頷いたら「自慢じゃねぇが、俺は生れてこの方インフルエンザにゃ罹ったことねぇんだよ」とニヤリとされた。
だから心配ないと言われても、今までならなかったからと言って、未来永劫大丈夫とは限らないではないか。
「でも……」
(ふふっ。幸せ♥)
京介とともに医者から渡されたマスクを付けながら、芽生はワオンモールであったことに思いをはせた――。
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宝石店『Écri Bijou』で、ピンク色のチューリップモチーフの指輪を初めて見た時、最初のうち、芽生は京介がそんな〝一点もの〟を自分のために誂えてくれたのが嬉しくて堪らなかった。
でも、段々と(どうしていつも通り生花じゃないの?)という気持ちが鎌首をもたげて……《《あること》》に思い至った途端、不安に押しつぶされそうになってしまった。
オーダーメイドのアクセサリーなんて、一朝一夕で仕上げられるものではないと思うと、京介の気持ちの固さを思い知らされるようで、泣きたくなった。
注文した当初は芽生が思った通り、芽生から離れるつもりで指輪を作ったのだと吐露した上で、京介は〝すべては過ぎ去ったこと〟だと断言してくれた。全部杞憂だったと知った時の喜び。
それを思い出して、芽生はマスクの中で、ほんのちょっぴり口角を上げた。
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やはり自覚してしまったのがいけなかったんだろうか。
段々しんどくなってきて、芽生は病院後、車内で力なく窓へ寄り掛かるようにして身体を支えた。
そうしながら、一生懸命しっかり座っていようと頑張ったのだけれど、そんなのお見通しみたいに京介から引き寄せられて、彼の腿の上へ頭を乗せられてしまう。
(ひゃー。京ちゃんの膝枕っ)
現状に、頭の中では忙しなくもう一人の自分が騒いでいるけれど、実際には身体がぐったりと重怠くて、ぼんやりと京介を見上げることしか出来ない。
そんな芽生の視界を塞ぐように京介の大きな掌が目の上へ降りてきて「寝ろ」と促された。
運転席の石矢にも病院でもらったマスクを手渡した京介が、ほんの少しだけ窓を開けて換気を命じる様をぼんやりとした意識の片隅で捉えながら、芽生はトロトロと微睡んだ。
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帰宅後、すぐさまパジャマに着替えさせられた芽生は、京介から追い立てられるようにして寝室へ入った。
「京ちゃん……」
不安げに瞳を揺らせて京介を見上げたら、京介が「そばにいてやるから安心して休め」と布団を着せかけてくれる。
「でも……」
実は京介も自分も、今マスクをしていない。マスクをしたままは息苦しかったから、外せたこと自体は有難かった芽生だけれど、こんなに京介との距離が近いと彼に感染してしまいそうで怖い。「石矢は帰したんだから、マスクなんざ必要ない」と京介は言ったけれど、芽生としては京介がいる時点で気が気じゃないのだ。
「ひょっとして俺のことを心配してんのか?」
京介がヨシヨシと頭を撫でてくれながらそう問い掛けてくるから、小さく頷いたら「自慢じゃねぇが、俺は生れてこの方インフルエンザにゃ罹ったことねぇんだよ」とニヤリとされた。
だから心配ないと言われても、今までならなかったからと言って、未来永劫大丈夫とは限らないではないか。
「でも……」