組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
なにしろ芽生は風邪ではなく、インフルエンザなのだ。『長谷川社長や静月さんに感染したら大変だからお断りして?』と口を開こうとしたら、「丁重に断っておいたから安心しろ」とニヤリとされる。
こういう時にもそっと意地悪を忍ばせてくるのが京介らしくて憎らしい。でも、それと同じくらい、そんな京介のことが、芽生は愛しくて堪らないのだ。
だが、それはそれとして――。
「違……うの、京ちゃん。私が心配して……る、のは貴方、のお仕事……の方……だよ」
それだけは言わなくちゃ、と思った。
途端、京介がキョトンとした顔をするから芽生は拍子抜けしてしまう。
「京、ちゃん?」
恐る恐るそんな京介に声を掛けたら、「バーカ。苦しんでるお前をひとりに出来るかよ」と、やや罰が悪そうに京介が言った。
そうしておいて、気遣わし気に芽生の頭へ濡れタオルを乗せてくれてから、物凄く真剣な目で芽生を見詰めてくるのだ。
芽生は思わず布団から手を出すと、口元を覆うのも忘れてそんな京介をじっと見上げる。彼の方へそっと手を伸ばして「大丈夫だよ」と頭を撫でてあげたい衝動に駆られたと言ったら、京介に『子供扱いすんな』と叱られてしまうだろうか? そんなことを思った。
***
遠くの方から、耳慣れた電子音が聞こえてくる。
(……あれは何の音だったかな?)
ぼんやりとそう思ったと同時、まるでその音に呼ばれるように、握られていた手が解かれて、
「ちょっと待ってろな?」
そんな声が降って来て、頭を軽く撫でられた。
(ああ、あれはそう……。チャイムの音だ……)
自分の傍を京介が離れる気配に、ほんの束の間だと頭の片隅では分かっているのに、寂しさが一気に押し寄せてくる。その寂寥感に、芽生の心は押し潰されそうだった。
――身体中が痛い。
――すっごく熱いし苦しい。
――京ちゃん、お願い、早く戻ってきて? 私を一人にしないで?
あれからどんどん熱が上がって、三十九.五度を超えた辺りから、芽生は夢と現の狭間を揺蕩っている。
そんな芽生の傍に、京介はずっといてくれたのだ。そうして、芽生が力なく伸ばした手を大きな手で包み込んでくれていた。それは、ぼんやりした意識の中でも芽生をなんとかこちら側に繋ぎ止めてくれる温かくて頼り甲斐のある賭けが言えのない糸だった。
それが、解かれてしまった。
身体は思うように動かないし、いっそのこと完全に意識を手放して眠ってしまいたいとも思うのに、辛すぎて眠れない。かといってしっかり起きていられるわけでもない。
そんな状態のなか、京介が部屋を出て行ってしまったというたったそれだけのことが、芽生をどんどん気弱にしていくのだ。
――あと数日でクリスマスなのに……。
――イヴは京ちゃんと恋人らしいこと出来るかな? って思っていたのに……。何でこんな……。
芽生はぼんやりとした意識の中、ただひたすらに、せっかく京介と両想いになれて初めてのクリスマスなのになんてもったいないんだろう、とそればかりを思う。
そのことが、ただひたすらに悲しい。
――ああ。そういえば私の誕生日も来るんだっけ。
京介は芽生の誕生日を盛大にお祝いしてくれると言っていた。
今までクリスマスと一緒にしか祝われたことのない誕生日だ。それを、生れて初めて個別に祝ってもらえるチャンスだったのに、それも駄目にしてしまったと思うと、自分の不甲斐なさが情けなくてたまらない。
こういう時にもそっと意地悪を忍ばせてくるのが京介らしくて憎らしい。でも、それと同じくらい、そんな京介のことが、芽生は愛しくて堪らないのだ。
だが、それはそれとして――。
「違……うの、京ちゃん。私が心配して……る、のは貴方、のお仕事……の方……だよ」
それだけは言わなくちゃ、と思った。
途端、京介がキョトンとした顔をするから芽生は拍子抜けしてしまう。
「京、ちゃん?」
恐る恐るそんな京介に声を掛けたら、「バーカ。苦しんでるお前をひとりに出来るかよ」と、やや罰が悪そうに京介が言った。
そうしておいて、気遣わし気に芽生の頭へ濡れタオルを乗せてくれてから、物凄く真剣な目で芽生を見詰めてくるのだ。
芽生は思わず布団から手を出すと、口元を覆うのも忘れてそんな京介をじっと見上げる。彼の方へそっと手を伸ばして「大丈夫だよ」と頭を撫でてあげたい衝動に駆られたと言ったら、京介に『子供扱いすんな』と叱られてしまうだろうか? そんなことを思った。
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遠くの方から、耳慣れた電子音が聞こえてくる。
(……あれは何の音だったかな?)
ぼんやりとそう思ったと同時、まるでその音に呼ばれるように、握られていた手が解かれて、
「ちょっと待ってろな?」
そんな声が降って来て、頭を軽く撫でられた。
(ああ、あれはそう……。チャイムの音だ……)
自分の傍を京介が離れる気配に、ほんの束の間だと頭の片隅では分かっているのに、寂しさが一気に押し寄せてくる。その寂寥感に、芽生の心は押し潰されそうだった。
――身体中が痛い。
――すっごく熱いし苦しい。
――京ちゃん、お願い、早く戻ってきて? 私を一人にしないで?
あれからどんどん熱が上がって、三十九.五度を超えた辺りから、芽生は夢と現の狭間を揺蕩っている。
そんな芽生の傍に、京介はずっといてくれたのだ。そうして、芽生が力なく伸ばした手を大きな手で包み込んでくれていた。それは、ぼんやりした意識の中でも芽生をなんとかこちら側に繋ぎ止めてくれる温かくて頼り甲斐のある賭けが言えのない糸だった。
それが、解かれてしまった。
身体は思うように動かないし、いっそのこと完全に意識を手放して眠ってしまいたいとも思うのに、辛すぎて眠れない。かといってしっかり起きていられるわけでもない。
そんな状態のなか、京介が部屋を出て行ってしまったというたったそれだけのことが、芽生をどんどん気弱にしていくのだ。
――あと数日でクリスマスなのに……。
――イヴは京ちゃんと恋人らしいこと出来るかな? って思っていたのに……。何でこんな……。
芽生はぼんやりとした意識の中、ただひたすらに、せっかく京介と両想いになれて初めてのクリスマスなのになんてもったいないんだろう、とそればかりを思う。
そのことが、ただひたすらに悲しい。
――ああ。そういえば私の誕生日も来るんだっけ。
京介は芽生の誕生日を盛大にお祝いしてくれると言っていた。
今までクリスマスと一緒にしか祝われたことのない誕生日だ。それを、生れて初めて個別に祝ってもらえるチャンスだったのに、それも駄目にしてしまったと思うと、自分の不甲斐なさが情けなくてたまらない。