純愛初夜、次期当主は初恋妻を一途な独占愛で貫きたい。
第3章 去る決意
朝、目が覚めると、枕が少し湿っていた。昨夜、泣きながら眠りに落ちたせいだ。
アパートの小さな窓から差し込む薄い朝の光が、部屋に浮かぶ埃を照らし出す。
六時半。いつもなら会社に行く準備を始める時間なのに、今日は体が鉛のように重い。心の中に詰まった何か重いものが、動くことを拒んでいるみたいだ。
ベッドの端に腰を下ろし、ぼんやりと床の木目を眺める。昨日のカフェでの出来事が、頭の中で何度もリピートされた。
廉斗の冷たい目に“愛人の子”という言葉、美里さんの嘲笑のような微笑み。そして、左手の薬指にあったはずの指輪の輝きが、なくなってしまったという現実。すべてが胸を締め付ける。
スマホを手に取ると、画面には通知が山ほど溜まっている。美奈さんからの着信履歴、LINEのメッセージも来ていた。でも、開く勇気が湧かない。
シャワーを浴びて、洗面台の鏡に映る自分を見る。目が赤く腫れ、目の下には濃いクマができていた。
隠せるかな……だけど、会社に行けばまたあの視線に耐えなければならない。
同僚たちのヒソヒソ話、噂の目。「愛人の子」というレッテルが、まるで私の影のようにまとわりつく。もう、あのオフィスに私の居場所はないのかもしれない。
もう、私に救いはなにもない。