令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~



「こうやって一緒に出かけるの、なんだか不思議。まだ夢みたい」
 言葉がぽろりとこぼれ、芙美は少し恥ずかしくなって視線を逸らした。だが、侑は穏やかに笑って答えた。
「俺は現実のほうがいい。だって、夢だったら芙美に触れられないから」
 その言葉に、芙美の心臓が大きく跳ねた。頬がカッと熱くなり、まるで温泉の湯気よりも濃い熱が、胸の中で広がっていった。彼女は、侑の真剣な瞳を見つめ、言葉が出ないまま微笑んだ……この人といると、こんなにも心が温かくなる。

 帰りの電車では、歩き疲れた芙美がうとうとと侑の肩に頭を預けた。窓の外では、夕暮れのオレンジ色が田園風景を染め、遠くの山々がシルエットとなって浮かんでいる。侑は動かず、ただ優しく彼女を支えていた。肩から伝わる温もりが、芙美の心に静かな安心感を刻んだ。
 侑もまた、芙美の穏やかな寝息を聞きながら、胸に温かな気持ちが広がるのを感じていた。この遠出が、まるで二人の関係に新しいページを加えるようだった。


< 103 / 131 >

この作品をシェア

pagetop