令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~
その後、二人は川沿いの遊歩道を歩いた。川面に映る秋の木々が、そよ風に揺れてきらめく。芙美は、侑の隣を歩きながら、意を決して口を開いた。
「ねえ、次は私が出します。今日のお礼」
少し照れながら言うと、侑は楽しそうに笑った。
「じゃあ、次の約束ができたってことだな」
その笑顔に、芙美も自然と笑みを返した。二人の間に流れる空気が、まるで川のせせらぎのように軽やかで温かかった。温泉街の喧騒が遠くに聞こえ、二人だけの時間が静かに広がった。
帰りの電車では、芙美は窓際に座り、侑の肩にそっと寄りかかった。窓の外では、夕暮れのオレンジ色が田園風景を染め、遠くの山々がシルエットとなって浮かんでいる。
トラブルさえも、二人にとっては思い出の一部になる。
芙美は、心の中でそう思えた。侑もまた、芙美の穏やかな寝息を聞きながら、胸に温かな気持ちが広がるのを感じていた。
夜、アパートのベランダに出た芙美は、夜空を見上げた。都会の光に少し霞む星々が、静かに瞬いている。今日の出来事――温泉街の湯気、割れた小皿、侑の笑顔が、まるで心のキャンバスに鮮やかな色を塗るように、彼女を満たしていた。