令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~
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翌日、芙美は地域イベントの打ち合わせのため、町の商工会の会議室に足を運んだ。スーツに身を包み、資料を抱えて会議室に入ると、そこにはすでに侑の姿があった。彼はこの街でのプロジェクトに関わるスポンサー企業の担当として、打ち合わせに参加しているらしい。
「おはようございます、吉川さん」
侑の声は穏やかで、仕事モードの落ち着いた微笑みがそこにあった。芙美もまた、プロフェッショナルな笑顔で応じる。
「おはようございます、三浦さん」
二人は軽く挨拶を交わし、席についた。会議が始まると、芙美は広報担当として、侑はデザイン会社の一員として、それぞれの役割に集中した。資料をめくり、意見を交換し、プロジェクトの進行を確認する。仕事モードの二人は、まるでカフェでの軽やかな会話が嘘だったかのように、きびきびと動いていた。
だが、ふとした瞬間に目が合うと、互いに微かな笑みがこぼれる。その一瞬が、芙美の心に小さな火花を散らした。仕事の場では、彼女はいつも完璧であろうと自分を律してきた。だが、侑の視線を感じるたびに、普段の硬さが少しずつ解けていくような気がした。
会議の途中で、侑が資料を渡すために芙美に近づいた。
「吉川さん、ここ、確認していただけますか」
そう言って彼が差し出した資料を受け取る瞬間、侑の指が芙美の肩にそっと触れた。ほんの一瞬の接触だったが、彼女の心臓は大きく跳ねた。手に伝わるわずかな温かさが、まるで静かな日常を揺さぶる波のように、芙美の心を乱した。彼女は慌てて資料に目を落とし、平静を装った。
「はい、了解しました」
声は落ち着いていたが、内心では動揺が収まらない。侑は特に変わった様子もなく席に戻ったが、芙美の胸には、さざ波のような余韻が残っていた。