令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~



「おはよう、芙美さん」
 侑の声は柔らかく、ほのかな照れを帯びていた。
「おはようございます、侑さん」
 芙美もまた、笑顔で答えた。互いに少し照れながらも、侑が自然に手を差し出す。芙美は一瞬胸が跳ねたが、すぐにその手を取った。温かさがじんわりと伝わり、心地よい距離感が二人を包む。ぎこちなさはもうなく、まるで長年の友人のように、自然な空気が流れていた。

 二人は、街の小さな図書館へ向かった。木造の建物に囲まれた静かな空間は、芙美にとって心を落ち着ける場所だった。本棚の間を歩きながら、芙美は好きな小説を手に取り、侑は興味を引かれた写真集を手に持つ。二人は、互いに本を紹介し合いながら、静かな会話を楽しんだ。
「この本、面白いんですよ。芙美さんも好きかもしれません」
 侑がそっと一冊の小説を差し出す。その表紙には、淡い色合いのイラストが描かれている。芙美は本を受け取りながら、彼の真剣な瞳を見つめ、心がじんわりと温かくなった。
「ありがとうございます。私も、この作家好きなんです」
 彼女の声には、自然な笑みが混じっていた。侑が手に持つ写真集を覗き込みながら、芙美は彼の好みに触れる喜びを感じた。モノクロの風景写真に、侑がどんな思いを重ねているのか。それを知るたびに、彼女の心に新しい色が加わっていくようだった。
 図書館の窓から差し込む光が、本棚の間に柔らかな影を落とす。静かな空間で、文字や写真を通じて互いの好みを知る時間は、まるで二人の心をそっと重ねるような、特別なひとときだった。


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