令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~
午後、芙美は仕事へ向かう侑を駅まで見送った。秋の陽射しが、駅前の広場を優しく照らす。通りには、週末を楽しむ人々の笑い声や、遠くで響く電車の音が混じり合う。二人は自然に手をつなぎ、ゆっくりと歩いた。侑の手の温もりが、芙美の心に小さな幸せを刻む。
「今日も頑張ってね」
芙美が軽やかに言うと、侑は柔らかな笑顔で答えた。
「芙美さんも、無理しないでね」
その軽やかなやりとりが、二人の距離をさらに心地よくした。駅の改札で別れる瞬間、侑が振り返って小さく手を振ると、芙美も笑顔で手を振り返した。日常の中のささやかな瞬間が、まるで二人だけの宝物のように輝いていた。
夜、芙美がアパートに帰ると、リビングでくつろぐ侑の姿があった。テレビの音が小さく流れ、ソファに座る彼の横には、開いたデザインの本が置かれている。芙美はバッグを下ろし、侑に微笑みかけた。
「ただいま」
「おかえり、芙美さん」
侑の声には、穏やかな安心感が込められていた。二人はソファに並んで座り、テレビを見ながら何気ない会話を交わした。仕事の話、街で見た面白い出来事、週末の予定。派手ではないけれど、互いの声を聞くだけで、心が満たされる瞬間だった。侑がふと肩を寄せると、芙美も自然に身を寄せた。肩から伝わる温もりが、日常のささやかな幸福を確かに感じさせた。
芙美は、心の中で静かに呟いた。
――恋って、こうして日常に溶けていくものなんだ。一緒にいるだけで、心が満たされる。
侑もまた、芙美の笑顔を見つめながら、同じ思いを抱いていた。彼女の柔らかな声や、さりげない仕草が、彼の心に静かな喜びを灯していた。