残念令嬢、今世は魔法師になる

17、ブレスレットの真実

 遠くで鐘の音が聞こえる。学校の近くの大聖堂が夕方の鐘を鳴らしているのだろう。見あげるとガラス越しに空が、黄金色から深い青へと変わっていくところだった。

 ノエインは私から離れて、床に落ちている布切れを拾った。それは彼が左腕に巻いているスカーフだった。私の魔法の勢いで破れてしまったようだ。

「あ、ごめんなさい」
「いいよ、別に。俺のせいだし」

 彼は破れたスカーフをズボンのポケットに突っこんだ。
 左腕には私と同じ金のブレスレットが見えている。
 前からずっと、そのことが気になっていた。

 あのとき彼は私のブレスレットを寄こせと言っていたけれど、今は特に何も言ってこない。

「あの、訊いてもいいかな?」

 ノエインは黙ったまま、顔だけ私に向ける。
 薄暗くなった室内に、魔法科の紋章がじわりと銀色の光を帯びて、彼の表情を白く照らした。

「このブレスレットが世界に一つしかないって本当?」

 ノエインはわずかに呼吸を置いて、静かに答える。

「ああ。これは俺の命そのものだから」
「ええっ⁉」
「外すと死ぬ」
「そ、そんなっ……」

 あまりに予想外なことで頭が真っ白になった。
 彼は淡々と続ける。

「この魔道具を作ったときに魂を持っていかれた。そのことを知らなかったんだ。俺も子供だったから」

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