残念令嬢、今世は魔法師になる
 到着した瞬間、なつかしい空気が広がった。
 私がかつて暮らしていた場所だ。
 心がざわついた。いい思い出なんて一つもないのに、胸がぎゅっと締めつけられる。

 アンデル侯爵家の邸宅は外から見る限り、まるで絵画のような美しさだった。
 外壁は一つのひび割れもなく、窓はどれも磨きあげられている。
 正門からエントランスへと続く小道はきちんと石畳が敷き詰められていて、庭園には色とりどりの花が咲いている。
 噴水の水は澄んでいて、太陽の光を受けてきらめいている。

 どこからどう見ても立派な貴族の邸宅そのものだ。
 けれど私は知っている。これはリベラの魔法で保たれている仮初めの美しさだということを。
 財政難のアンデル家は修繕費用も庭師を雇う金もない。使用人さえ限られている。
 魔法は永久に持続するものではないので、リベラは毎日どこかを修繕しているはずだ。
 リベラを学校に通わせる条件として彼女の魔力を利用する。
 あの両親のやりそうなことだ。

 まずエントランスで執事と使用人たちに出迎えられたが、全員まったく愛想がなかった。まあ、でも前世もそうだったので想定通りだったけど。
 そういえば、こんな人たちもいたなあとぼんやり記憶に残っているけど、まともに話したことがない。

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