残念令嬢、今世は魔法師になる
 ふたりで部屋を出て廊下を歩く。
 家族も使用人たちもすべてが寝静まった夜の邸宅内は、少し寂しげだ。
 エヴァン伯爵家はそれでも明るさがあるけれど、この家はとても暗くてひそやかだ。
 この少し不気味な感覚があまりいい気分ではなくて、カイラだった頃の私は夜間に部屋から一歩も出なかった。
 けれど、リベラは平気なようだ。
 自身で火をつけたランタンを手に持って、慣れた様子で暗い廊下を歩いていく。

「ついでに飲み物を持っていきましょう。ちょっとおしゃべりしすぎたみたい」
「そうだね」

 私たちはそのあと厨房へ向かった。
 すると、誰もいないはずのその場所で、数人の声がして、ふたりで顔を見合わせた。

「料理長がこんな時間までレシピを考案しているのかしら?」

 リベラがきょとんした顔で言った。
 たしか母がカイラのためにかなり細かく料理の指示をしているんだっけ。

「邪魔しちゃだめだね」
「飲み物をもらうくらいならいいわ」

 私たちがふたりで厨房へ入ろうとした瞬間、料理人の訴えるような声が聞こえた。

「そんなことできません。もしカイラお嬢様に何かあれば、今度は私が疑われるはめに」

 私たちはぴたりと足を止めた。
 今この中に入ってはいけないのだと、直感でわかった。

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