残念令嬢、今世は魔法師になる

29、すべての元凶

 厨房で新しく来た料理人と話しているのは、食材を届けてくれる人だとリベラは言う。
 彼らは最近入れ替わったばかりで、それも母の指示なのだと思っていたようだ。
 けれど、彼らの会話からすると少し事情が違うみたいだ。

「これは病気になる薬ではない。少量ずつ混ぜておけばいい。1年後に効果が出ればいいんだ」
「し、しかし、ベルミスは違法だ。もしこのことがバレたら私が捕まってしまう」
「心配ない。バレるようなことが起こったら、そのときは本人が勝手にやったことにすればいい。どうせベルミス常習者の話など、誰もまともに聞かないだろう」

 リベラが私を見て首を傾げた。ベルミスのことを知らないのだろう。
 けれど、私はよく知っている。これは異国の違法薬物だ。
 特に魔力を持つ者に有効で、魔力増強や多幸感をもたらす代わりに幻覚作用や抑鬱状態という副作用があり、常時服用するとやがて精神と人格の崩壊を起こして死に至る。
 前世では夫がこの闇取引に加担していたことで、私も取り調べを受けたことがある。

 貴族がよく隠れて常用していることは知っているけど、まさか黙って服用させようとしている人がいるなんて。

 何の目的で? 誰を標的にしているの?
 侯爵か夫人か、あるいは――

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