残念令嬢、今世は魔法師になる
「おやおや、これは……お嬢様ではないですか。こんな時間にいったい何用で?」

 目の前の執事は無表情のまま、ゆったりとした口調で言った。
 彼の問いにリベラは答えない。いや、答えられないようだ。彼女は驚愕の表情で震えている。
 だから私が代わりに答えた。

「の、喉が渇いたんです。それで、水を……」
「水など、あなたがたの力があれば容易く出せるでしょう。それとも、魔力が弱すぎて無理ですか?」

 ゆっくりと穏やかな話し方なのに、背筋が凍りつくような威圧感がある。
 この執事、表情は普通だけど目つきや口調が異様に怖い!

「タイミングが悪いですね」

 執事は一歩、こちらへと進みでた。

「朝まで目覚めなければ、何も知らずに済んだでしょうに」

 執事のその言葉に、言い逃れはできないとわかった。私たちがいくら惚けたふりをしても、見逃してはくれないだろう。
 リベラが震え声で訊ねる。

「なぜ、お姉様の食事に、薬を……」
「邪魔だからですよ」
「い、意味がよくわからな……」
「知る必要はありませんよ。どうせここで忘れることになりますからね」

 執事は口角を上げてそう言った。つまり、排除するということだ。
 彼はリベラから私へと目を向ける。その目に憎悪のような不気味な気配を感じた。

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