残念令嬢、今世は魔法師になる

30、魔力の暴走

　執事は怒りを剥きだしにして、容赦なく私に火の魔法を放った。
　大人げないけれど、きっと余裕がないのだろう。
　もしかしたら本気で私を排除する気なのかもしれない。けれど、不思議と私に恐怖感はなかった。
　私の頭はやけに冷静で、淡々と火魔法に対抗すべく水魔法を発動させる。
　
　執事は私の水魔法で自身の火魔法が破られたことに憤り、怒りの表情で濁流のような水魔法を放った。
　私は冷静に判断して＜氷の女王＞を作りだす。

　本当に不思議。感情は怒りでいっぱいなのに、なぜか頭が冴えていて、今なら何でもできてしまう。

　私の＜氷の女王＞は相手の放った水魔法を凍らせていく。
　ピシピシと透き通った音を響かせながら、それは次第に相手の手から腕に伸びていった。

「なっ……なんだ、これは！」

　執事が驚愕の表情で叫んだ。
　彼の腕が凍りつき、腕から肩へ、さらに胸もとへと進み、やがて全身に広がっていった。
　執事の体が氷漬けになっていく様子を見ても、私の頭は冷えていた。
　ただ、感情だけは煮えたぎるほどの怒りに満ちていて、止められない。

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