残念令嬢、今世は魔法師になる
「まあ、お帰りになるのね」
「よく寝ているようなんで、起こすと悪いし」
「じゃあ、お菓子だけでも持って帰って」
「ありがとうございます」

 俺は魔道具の説明をして、菓子の袋を受けとると、静かに部屋を出た。
 部屋の前で足を止めて、ふと思う。
 彼女は俺を誰かと勘違いしているように見えた。
 しかし、彼女はたしかに俺の名前を呼んだ。

 俺が生きていたとか、トキオリ草を持ってきたとか、意味のわからないことばかり言っていたが。
 考えてみても覚えがない。

 俺は彼女の前で死ぬようなことをしたか……したな。ものすごい泣いていたが。しかし、あれとさっきの言葉に関連性はないような気がする。
 それに、俺はトキオリ草を摘むためにわざわざ山へ行ったことはない。生えているのを遠目で見たことはあるが。

「……わかんねぇな」

 彼女に関しては意味不明なことばかりだ。
 考えるのも面倒なので、さっさとエヴァン家をあとにした。

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