残念令嬢、今世は魔法師になる
 あれは私がカイラとして辺境伯家へ嫁ぐ日の朝のことだった。
 夜明けから降り続いた雨は、そのときもまだ冷たくて、止む気配はまったくなかった。
 両親は見送りにすら現れず、使用人たちもただ義務的に荷物を運ぶばかり。

 そんな中、たったひとり涙ぐみながら私を見送ってくれたのがリベラだった。
 彼女はスカートの裾を濡らしながら正門まで駆けつけてくれたのだ。

「お姉様……本当に、行ってしまわれるのですね」
「リベラ、お屋敷のことを頼んだわ」
「ごめんなさい、お姉様」

 その言葉に私は少し驚いた。

「どうしてあなたが謝るの?」

 リベラは唇を噛みしめ、震える声で言った。

「私は臆病で……父と母に、何も言えなかった。お姉様がこんな形で嫁ぐのを、ただ見ていることしかできなくて……こんな私を恨んでくれて構いません」

 返す言葉が見つからなかった。
 恨みなどない。けれど、両親にずっと目を向けられていて、彼女のことをうらやましいと思っていたのは事実だ。

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