初恋相手に再会したら、恋の続きになりまして

6

夜のバー。
昼間の柔らかな光が差し込むカフェは、ゆったりとしたジャズが流れる大人の空間に変わっていた。
ランプの灯りが低く抑えられ、木のカウンターに反射する琥珀色の光は、どこか心を落ち着かせる。

そのカウンターに座るのは、理世。

今日は、落ち着いたワンピースに身を包んでいる。
時折、視線を上げると、カウンターの向こうでシェイカーを振る滉星と目が合った。

滉星は白いシャツに黒のベスト姿。昼間の建築士とは別人のように、落ち着いたバーテンダーの顔をしていた。
シェイカーを振る姿も、氷をグラスに落とす仕草も、何もかもが洗練されていて――その一挙一動が理世を惹きつける。

「お待たせしました」
滉星がグラスを差し出す。
理世の前に置かれたのは、鮮やかなルビー色のカクテル。
「理世に似合うと思って」
その言葉に、理世は一瞬言葉を失い、頬を赤らめながら小さく笑う。

その様子を、カウンターの奥で料理を仕上げていた田中は、にやにや顔で眺めている。
(……間違いない。絶対この二人、何かあったな)

妙に二人の空気は甘い。
しかも、今日は理世が開店時間からいる。

田中はピザをオーブンに入れながら、わざとらしく鼻歌を歌った。
「ふふーん♪ いやぁ、恋の季節ですね~」

「……うるさい」
滉星がカウンター越しに低い声で返すが、耳の先がほんのり赤くなっているのを理世は見逃さなかった。

理世も笑いをこらえながらグラスを傾ける。
カクテルの甘さとアルコールの熱、それに滉星の存在感が混ざり合い、胸の奥がさらに温かくなっていった。

田中はにやけ顔を隠そうともせず、心の中で確信する。
(オーナー、完全に落ちてるじゃないっすか。理世さんも同じ顔してるし)

カウンター越しに視線を交わす二人の姿は、誰の目にも特別なものに映っていた。
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