初恋相手に再会したら、恋の続きになりまして

【サンセットオレンジ】

店を任された田中は、カウンターの奥で腕を組んでいた。
シェイカーを振りながら、表面上は笑顔を崩さない。けれど、心の中はどうしてもざわついていた。

売上が落ちている。
数字は嘘をつかない。
常連の女性客の来店頻度が目に見えて減ったのだ。

原因も分かっている。
オーナー、神田滉星がほとんど店に立たなくなったからだ。
建築士の仕事もあるし、なにより――最近はあの人、理世さんと過ごす時間を優先している。

もちろん、それ自体は応援したい気持ちもある。
でも、オーナーが店にいないことで、空気がどこか薄くなってしまった。
色気駄々漏れの大人な雰囲気をまとったオーナーの存在感は、店のブランドそのものだった。
彼を一目見たくて、彼にお酒を作ってもらいたくて、女性客はやってきていたのだ。

田中も「かわいい系の店長」として、愛嬌とトーク力を売りにしてきた。
確かに、一部の女性客には「駿斗くんに会いに来た」と言ってもらえる。
でも、あの圧倒的な大人の色気を求めていた層は、どうしても自分では引き込めない。

…悔しい……。

心の中で唇を噛む。
自分なりに必死で頑張っている。
でも、オーナーの存在感があまりに強すぎて、その影に飲み込まれそうになる。

「さあ、どうするか……」
カウンター越しに、氷がグラスに落ちる音を聞きながら、田中は心の中で問いかける。

バータイムの静かな店内で、田中の瞳はわずかに揺れていた。
悔しさと憧れ、そして負けたくないという闘志が、胸の奥で入り混じって燃えている。
< 43 / 79 >

この作品をシェア

pagetop