さくらびと。 恋 番外編(3)




診察室から出てきた有澤先生と目が合う。





反射的に視線をそらしてしまう蕾を見て、有澤先生は一瞬悲しげな表情を浮かべていたような気がした。







「桜井さん、301号室の町田さんの投薬指示、変更しましたので。」






声をかけられても緊張で指先が冷たくなる。








「はい」とだけ答えて電子カルテをチェックする蕾に、周囲にわからないように、有澤先生は小さいメモを添えた。







"忘年会、行く?"






綺麗な字で書かれたメモを見て、蕾の心臓が小さく跳ねる。






そのメモをみて先生の方にチラッと視線を移すと、有澤先生は蕾に少し困ったような、優しい眼差しを向けていた。







周囲の喧騒が遠ざかっていくような錯覚に陥る。





「……はい。」






「そっか。ならよかった。」






それだけ言ってナースステーションから、去っていく背中を見送りながら、蕾の胸の奥で微かな鼓動が響いていた。






 
 
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