さくらびと。 恋 番外編(3)
「板垣先生から聞いた。猪尾…千尋さんのこと…」
その言葉に一気に体が凍りつく。
5年前の記憶が洪水のように押し寄せた。
院内での患者の自死。—看護師の蕾にとって、一番辛い経験そのものだった。
「そう…ですか。」
自分から言う前に、有澤先生に知られるなんて……。
蕾はショックで鈍器で頭を殴られたような感覚に陥った。
「桜井さんは何も悪くないよ」
有澤先生は優しくも断固とした口調で言った。
「あの時の検証報告書も読んだ。自死のリスク因子は複合的で予測困難だったと結論されてる」
「でも……私がもっと注意深く見ていれば……」
「それは不可能だよ」
有澤先生の声に確信が満ちている。
「我々が全てを予測できるわけではない」
「でも板垣先生は……私を責めてる……」
声が震え始める。ゆっくりじわじわと涙が再び溢れてくる。