双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜

1.私はアリアドネの影! カリンだ!

 「私はカリンです! アリアドネ・シャリレーンではありません」

 意を決して言った私の言葉に、黒髪に真紅の瞳をしたセルシオ・カルパシーノは笑った。

 セルシオ・カルパシーノは、独裁国家エウレパの元奴隷だ。彼はエウレパ王国から13歳の時に脱出した。そして、彼が19歳の時に未開の地であったカルパシーノ地方にカルパシーノ王国を創った。さらに、27歳の時にエウレパ王国を滅ぼし、エウレパ国王の側室だったアリアドネ・シャリレーンを自分の妃とした。

「カリン⋯⋯そんなことは君と出会った時から知っていたよ」

 彼が微笑みながら私の頬に手を当ててくる。
 出会った時からとは、私がアリアドネとして彼の前にあらわれた1年前からだろうか。

「騙されたふりをしていたんですか?」
「君が俺を騙しているふりをしていたのと同じ理由で、騙されたふりをしていたかもな」

 セルシオの真紅の瞳のように赤い炎が城の窓の外を取り巻く。
 王国の滅亡の寸前なのに、炎の光で照らされた彼の瞳が宝石のように美しかった。

 このまま姉は私と、私の愛した夫を燃やす気でいるのだろうか。

 私がセルシオを騙し続けていた理由は、彼を愛してしまってたからだ。

 私が、かの有名なアリアドネ・シャリレーンじゃないと知られたら彼にどう思われるかが怖かった。姉は私にとって唯一の身内で、姉との約束を破る訳にはいかなかった。

「私はアリアドネの双子の妹なんです。たぶん、シャリレーン教では忌み嫌われる双子であるがゆえに捨てられた存在……」

「捨てられた認識はあったのか……君のいた孤児院の人間が皆口封じに殺されたという事は知っているか?」

 私はセルシオの指摘に息を飲んだ。

 私はカルパシーノ地方にある孤児院で育った。

 19歳の時にやって来た私の双子の姉だと名乗る、『傾国の悪女』との異名を持つアリアドネ・シャリレーン。

 私は姉から彼女の替え玉をすれば、孤児院に十分な援助をすると聞いていた。
(孤児院の子たちが殺されたって? そんな事許されるはずがない! 約束が違う!)

 孤児院育ちの子と聞くと不幸せだと思われるかもしれないが私は幸せだった。
 母親のように思っていた人や、弟や妹のように思っていた人たちがそこにはいた。

「私の正体が明らかにされない為の口封じですか? アリアお姉様が? セルシオ……私のお願いを聞いてください。ここは私が何とか時間を稼ぐので、あなただけでも逃げてくれませんか? 私はあなただけには、生きていて欲しいのです」

 城を燃やされカルバシーノ王国が滅びようという今、全てを失っても彼にだけには生きて欲しいと願った。

 パレーシア帝国がカルパシーノ王国を帝国の領地だと主張してきた時から、私はいつ攻められても良いように剣術の腕を磨いてきた。
 
 城が燃える煙が脳に到達しているのか、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
(彼を逃したいけれど、隠し通路もバレているのに一体どこから⋯⋯)

「パレーシア帝国軍の目的は俺の首だ。カリン、俺も君にだけは生きていて欲しいんだ。俺の首を持って命乞いをしてくれ。君はアリアドネの実の妹で、強い神聖力を持っている。その上、誰よりも美しい。きっと殺すには惜しいと思われ助けて貰える。君を幸せにしたいと思う男が直ぐにでも現れるはずだ」

 セルシオは美しいだとか女の子が喜ぶ甘い褒め言葉を普段使わない。
 城に火を放たれ今生の別れになりそうな時になり、なぜそんな言葉を掛けるのか。

 私は彼に会えて十分幸せを貰った。

 だから、他の男から幸せにして欲しいなんて全く思わない。

 今度は私が彼を幸せにしたいのに、そんな夢が叶わぬ状況まで追い込まれている。

 私の幸せを願うといった姉が裏で手を引いて、今、私の夫を殺そうとしている。

 どうやら彼女は私が家族のように思っていた人たちまでも殺したらしい。

(血が繋がった私にそんな酷い事をするはずがないわ……本当に暗躍しているのはアリアお姉様なの?)

「きっと誤解があるんです。アリアお姉様は私に幸せになって欲しいと言ってくれました。私の幸せがセルシオと一緒にいることだと伝えたらきっと私たちを守ってくれるはずです」

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