双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜
孤児院にいる子たちも皆彼女の美しさに息をのんでいる。
 過去に私も彼女の美しさに盲目になった1人だ。

「アリアドネ・シャリレーン様ですよね。私はあなたの妹なんですか?」
 自分への確認のような質問だ。

 彼女はこの時から、おそらく私を利用する事を企んでいた。
 血の繋がった実の妹に対して信じられないような卑劣な行為だ。

 「そうよ。信じられる? 双子はかつてシャリレーン教で忌み嫌われるものだったでしょ。国王だった父は双子を産んでしまった母の尊厳を守る為、あなたをカルパシーノ地方の路上に捨てるしかなかったの。私は血を分けたあなたのことをずっと心配していたのよ」

 姉の琥珀色の瞳からは、ハチミツのように甘そうな雫がこぼれ落ちる。
 私が男なら、彼女の涙をすくい取り舐めとっていただろう。

 そして、その見た目とは違うしょっぱさに頬を緩め彼女をより愛おしく感じていたに違いない。

 彼女の持つ『傾国の悪女』の異名は伊達ではない。

 その仕草や振る舞いから、洗練されているのが一目で分かる。
 彼女が口を開くと、皆、彼女の言葉に耳を傾けた。
 姉は人の心を捉える天才だった。

 初めて彼女が現れた時は喜びで興奮した。
 自分の身内という人が有名なアリアドネで、彼女に愛おしく思われているのが自分だということに幸福感を覚え浮き足立った。

「そうでしたか。それで、今回はどういったご用件で19年ぶりに私を訪ねたのでしょうか?」

 もう少し喜んだ演技をした方が良かったかもしれない。
 それでも姉の企みを知ってしまった後では彼女の振る舞いが嘘くさい演技に見えた。
 
「ただ、会いたかっただけよ。私、セルシオ・カルパシーノに嫁ぐ事になったの……元奴隷の野蛮な人⋯⋯不安で仕方ないわ。もしかしたら、殺されるかもしれない。そう思ったら生き別れた妹に会いに来たくなったのよ」

「セルシオ・カルパシーノは素晴らしい人格者です。元奴隷だからこそ、虐げられてきた人々も含めて皆が幸せに暮らせる国をつくろうとしています。アリアドネ様の事もきっと幸せにしてくれるでしょう」

 本当は、姉がセルシオと結婚するのは嫌だ。

 私がセルシオの側にいたい。

 姉は回帰前、言葉巧みに私が姉の身代わりになるように誘導した。

 
< 10 / 137 >

この作品をシェア

pagetop