双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜
姉と私の願いを叶えてくれるという彼に、私も彼の願いを叶えると返してあげられない。
 彼の願いは私と一緒にいることだと聞かなくても分かっている。

 時を戻す前、大して彼のことを知らないのに彼と姉を自分の敵と決めつけてしまった。
 生贄にされた事実を知ってもなお、私の意思を尊重してくれる彼が敵とは思えない。

 歩いて行くと光が差し込んできて出口が近いのがわかった。
ルイスがそっと自分の左手の炎を消す。

「ほら、僕は火の魔力を完全にコントロールできるって分かった?」
「はい。私も神聖力のコントロール方法を学びたいです。お父様のことも、元気にし過ぎてしまったということですよね⋯⋯」
「まあ、そうかな⋯⋯しばらく、皇位は譲ってもらえなそう」

 ルイスが微笑みかけてきて、私は胸がいっぱいになった。

 隠し通路を抜けると、セルシオが私を待っていた。

「セルシオ! 会いたかった」
 私は気がつけば彼に抱きついていた。

「カリン、心配した⋯⋯君に何かあったらどうしたら良いのか」
 私を愛おしそうに抱いてくれるセルシオを抱きしめ返す。

「セルシオ国王陛下、カリンを父上を治療するのにお借りしました。しかし、カリンの力は人の欲望を引き摺り出すような恐ろしい力です。父上の1面を見ただけで全てを見たと思わず、1番愛おしい人を守ってください」

 ルイスが頭を下げていて、私は彼に駆け寄って私の為にそんなことをしないで欲しいと訴えたくなった。
 自分でもなぜだか分からないが、私はルイスが人に頭を下げたりするのを見たくない。
 
「ご忠告とカリンを見送ってくれたことに礼を言います」

 セルシオが私を抱く力を強くする。
 私は緊張で固まってしまった。

 私には彼との1年の結婚生活の記憶がある。

 しかし、彼にとって私は5日だけ自分の妻だった女で、身分まで偽っていた女だ。

 ルイスが隠し通路の出口に待機していた侍従から受け取ったお土産を渡して来る。
 私が昨晩食べ切ってしまったクッキーが30箱入っていた。

 私は私をじっと見つめるルイスから目が離せないままに、案内されるがままに小さな船に乗った。

 その後、パレーシア帝国の紋章のついた速そうな船に乗り継いだ。
 セルシオと私は豪華な客室に案内され、フカフカの赤いソファーに並んで座った。

「セルシオ、こんな遠くまで迎えに来てくれたのですか? 嬉しいです」
「カリン⋯⋯君が心配で気が狂いそうだった。帰ったら、正式に俺の妻になってくれ」

 私の頬に手を添えてくるセルシオに胸の鼓動が死にそうなくらい早くなる。
 
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