双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜
真っ暗な空洞の奥から、優しく澄んだ声が聞こえる。
 足音と共に近づいてくるその声は愛おしいカリンのものだ。
 そして、よく通るルイス皇子の声も聞こえた。

 この空洞は帝国の隠し通路という事だろう。
 そのような最高機密とも言える通路使わなければ、カリンを逃せられないということは港の封鎖はベリオット皇帝の命令かもしれない。

「セルシオ! 会いたかった」
 暗闇の中から現れた、太陽のような瞳を持ったカリンを見た途端、思いっきり抱きしめていた。
 知らない間に、彼女が自分にとって誰より愛おしい存在になっていた。

「セルシオ国王陛下、カリンを父上を治療するのにお借りしました。しかし、カリンの力は人の欲望を引き摺り出すような恐ろしい力です。父上の1面を見ただけで全てを見たと思わず、1番愛おしい人を守ってください」

 帝国の皇子が国王とはいえ小国の元奴隷の俺に頭を下げている。
俺はルイス皇子が心からカリンを愛していて俺に託したのだと思った。

 小舟で再び案内された先には、パレーシア帝国の最新鋭の船が用意されていた。
 追手が来たとしても、追いつけないような船ということでルイス皇子が用意した者だと船長が言っていた。

 パレーシア帝国の港は、カリンの乗った船が帝国の領海を抜ける2日後に再開するらしい。
 
 船内の部屋にカリンと2人きりになる。

 妹のように見えていた彼女が女のように見えてきて自分でも戸惑っていた。
でも、確かに俺は5日しか過ごしていない彼女のことを想い続けていた。

「カリン⋯⋯君が心配で気が狂いそうだった。帰ったら、正式に俺の妻になってくれ」
 俺のプロポーズにカリンは顔を真っ赤にして狼狽えながらもうなづいてくれた。
 そして、俺にクッキーが美味しいと差し出してきた。

「カリン、君の方が美味しそうだ⋯⋯」
 思わず漏れた自分の本音に笑いそうになる。

 
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