双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜
「大丈夫です。結婚式の熱気がすごくて、この国を守りたいという気持ちが一層強まった次第です」
 私の言葉に彼が少し笑った。
(セルシオのこの笑顔が好き! もっと彼を笑顔にできるように頑張らなきゃ。まずは、初夜で彼を笑顔にしてみせるわ)

♢♢♢

「すべてご準備が整いました。アリアドネ様」

「マリナ、本当にありがとね。こんなにお肌ってツルンツルンになるものなのね。あなたの丁寧な仕事ぶりには、いくら感謝しても足りないわ」
 私がお礼を言うと、マリナは少し照れながらお辞儀をして部屋を出ていった。

 ふと、私は回帰前に寝室でルイス皇子を待たされた時を思い出した。
 メイドが下がるなり、指を噛み切りベッドの下に魔法陣を書いたこと。

 クズだったルイス皇子に押し倒され恐怖を感じながらも、返り討ちにしたこと。信じていたのに私を盗聴して、裏で手を引いていたであろう唯一の身内の姉を生贄にしたこと。

 本当に最低な記憶だが、今、思い出すと着替えさせられた繊細なレースの寝巻きは可愛かった。

 今、着ている寝巻きはデザインがとっても簡素だ。
 そもそも、カルパシーノ王国において寝巻きは機能性重視で可愛いデザインのものがない。帝国を訪れたら、寝巻きだけは買って帰ったほうが良いだろう。
(セルシオに少しでも可愛いと思われたいわ)

「カリン、何を考えていたんだ?」
 不意に話しかけられ、ベッドに座って考え事をしていた私の隣にセルシオが座っていることに気がついた。

 彼の瞳に私が映っているのが分かる。
 時を戻す前、彼の瞳にもう1度私を映して欲しいと願った。

 「セルシオ⋯⋯私⋯⋯」
 涙がとめどなく溢れてくる。

 回帰前、セルシオが私をカリンと呼んだのは絶命する直前だった。
 彼に恋をしてからは、アリアドネと呼ばれるのがとても辛かった。

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