双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜
 私は両親に守られ、国民に愛されたシャリレーン王国の姫として生まれた。
 愛され守られていた時は、私も清らかな慈悲の心を持てていたと思う。

 神聖力が使えたということは、神様だって私を少しは愛おしいと思っていたはずだ。
 自分が無力で、最後は神頼みしていることを情けなく感じた。

バタン!

「殿下、大変です。マセルリ橋が崩落しました。カルパシーノ王国に行くには今すぐにでも出ないと間に合いません」

 その時、帝国の騎士が突然ノックもせず扉を開けて入ってきた。
 マセルリ橋とは、バルトネ王国からカルパシーノ王国に行くときに渡る橋だ。
 その橋を通れないとなると、かなり迂回するルートを使わなければいけなくなる。

「これからお楽しみだっていうのに、水を差すなよ。あんな小国の王なんて待たせておけば良いだろ」

 カルパシーノ王国の創建にはベリオット皇帝が大きく関わっている。

 今回、クリス皇子が帝国からはるばる来たのは、セルシオ・カルパシーノ国王との会談が目的だったのだろう。

「クリス皇子殿下、今日のところは行ってください。私も今度はもっと殿下を楽しませるようにお勉強しておきます。大好きな殿下が会談に遅れて、皇帝陛下から注意でもされたら私も嫌です」

 クリス皇子は、軽く私の唇に触れると立ち上がった。

「可愛い聖女様。もう、私のことを好きになっちゃったんだね。聖女と皇帝になる男はそういう運命の元にあるんだろうな」

 彼は脳が蕩けてしまったのだろう。
 ものすごく頭の悪そうな顔をして、部屋を出て行こうとした。

「クリス皇子殿下、アリアドネはお気に召して頂きましたか?」
 部屋の前にバルトネ国王が来ているのが分かった。

 隣にクレアラ王妃がいるのが見えて、私は母親のように思っている彼女に抱きしめて欲しいと思った。

 しかし、2人は私の方を見向きもしないで、爛々とした目でクリス皇子のみを見つめていた。

「当たり前だろ、アリアドネは美貌の聖女様だぞ。お前、絶対に手を出すなよ。お前の食べ残しなんて私は絶対嫌だからな。お前は隣の豚ババアでも食べてろ」

「おおせのままに。クリス皇子殿下、また、いつでもバルトネ王国をお尋ねください」

 バルトネ国王は一国の王でありながら、まるでパレーシア帝国の臣下のようだ。
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