双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜

28.どうか時を戻さないでください。

 私はルイス皇子との会談を終え、潜伏先のホテルに戻った。
 ずっと戻りたかった祖国に戻れる道筋が照らされて来た。

 シャリレーン王国は降りかかった不幸は、神にも等しい存在を捨てたことから始まったのだろう。

 シャリレーン王国の宗教色については薄めておく必要がある。私自身、国外を巡ることで信仰心は薄れていたと思っていた。
 そして、他国からいかにシャリレーン王国が異常な国と思われていたかを知った。宗教など役にたなない、自分しか頼れないという認識を持っていたはずだった。

 しかし、カリンの神聖力の強さを見せられた時、私は自分の方が身代わりの模造品だと思った。
 双子は悪魔の悪戯による模造品⋯⋯私の中に根付いたシャリレーン教による発想がそんな風に思わせてしまった。
 本当に妹のカリンを愛おしく思っていたはずなのに、姉であり王女として育てられたはずの自分が模造品だと思うと気が狂いそうになった。

 カリンが自分とは全く違う創世の聖女という存在だと気がつけたから、やっと彼女へ複雑な愛憎乱れる感情から解放された。

 もう、彼女に会うことはないかもしれないけれど、私は彼女の幸せも願えている。帝国の次期皇帝に守られる方が安全に過ごせるし、ルイス皇子はいかなる時も彼女を優先してくれるだろう。

ノックと共にケントリンが入って来た。

手には泥だからけの指輪が握られている。

普通、泥を拭いてから私に見せると思うのだが、そこまで指示していなかったから仕方がない。

「これで、シャリレーン王国に帰れるわ。帰国したら直ぐに私の戴冠式よ」
 私は自分のハンカチで指輪を嵌めながら宣言した。

 とっとと、セルシオ国王と離婚して祖国に戻ろう。
 シャリレーン王国には問題が山積みで、私にはやるべき事が沢山ある。

 その問題は皮肉なことに、シャリレーン王国で大切に育てられていたままでは気がつけなかったものばかりだ。

「それから、ケントリン。戴冠式と同時に私とお前の結婚式を挙げるから」
「はい、分かりました」
 ケントリンは無表情で了承する。

 
< 96 / 137 >

この作品をシェア

pagetop