下剋上御曹司の秘めた愛は重すぎる

新居が決まるまでは、日本橋の若宮邸――ではなく、私のマンションで同居することになった。

伊吹くんの住民票は日本橋の若宮邸になっており、最初の３年は祖父母と同居していたが、ここ２年はホテルロイヤルヴィリジアンの１室を借りてそこで暮らしているのだそうだ。

「仕事が忙しくなって、家に帰る時間が惜しくなった。送迎の手間も省けるし、トラブルにもすぐ対応できる。まさに一石二鳥だろ」

誇らしげにそう語る彼は、２４時間３６５日対応のホテルマンになっていた。

「それって、たとえ副社長と言えども社畜だよ……働きすぎだってば。無理しないでよ」

「嬉しいな、はるちゃんが心配してくれて。それになんだか昔みたいに話せて」

いや、昔より私の口調は強いと思う。無理のしすぎで身体を壊さないよう心配していると言うのに、彼はなんだか嬉しそうだ。話し方もすっかり以前の彼に戻っている。

（でも、嫌われたわけじゃなさそうで良かった……）

そういうわけで、てっきり私にも共にホテル暮らしを提案してくるか、新居が決まるまでは別々に暮らすのかと思いきや、

「はるちゃんのマンションに住みたい。大丈夫、俺は必要最低限の物しか持たない主義だから、荷物で場所は取らないよ」

「えぇっ、そういう問題じゃ……。第一、いくら短期間とは言え２人で暮らすには狭いよ？」

「いや、俺の昔のアパートに比べたら全然。それに少々手狭な方がいい。あまりに広いとスース―して落ち着かないんだ」

そんな彼にほだされて、私のマンションでの共同生活が始まった。